嘘の愛にさよなら

プロモーションを読み込み中...

嘘の愛にさよなら

GoodNovel 完結

江口城治(えぐち じょうじ)が破産した日、白血病と診断された。 私は迷わず留学のチャンスを放棄し、彼のために息子の江口直木(えぐち なおき)を産んだ。 そして、臍帯血を使い、彼の命を救った。 彼が目を覚ましたとき、涙を流してこう言った。 「思葉(ことは)、こんなに深く俺を愛してくれるなら、結婚してくれないか?」 結婚後、私は一日に三つのバイトを掛け持ちした。 家計を支えたり、直木の世話をしたり、城治の化学療法の費用を稼いだりした。 私はへとへとに疲れても、文句ひとつ言わなかった。 ある日、病室の前で、城治が友人に自慢しているのを聞いた。 「思葉は俺にぞっこんだ。 信じるか?俺が破産も病気もしていないと知ったとき、彼女が最初に思ったのは、俺が苦労していなくて良かったってことだ」 私は診断書を握りしめ、手がひどく震えた。 やっと、この結婚は最初から巧妙に仕組まれた詐欺だったのだと気づいた。 そして、私は彼に「教わった方法」で完璧に反撃することに決めた。

チャプター (1)

第1章

江口城治(えぐち じょうじ)が破産した日、白血病と診断された。 私は迷わず留学のチャンスを放棄し、彼のために息子の江口直木(えぐち なおき)を産んだ。 そして、臍帯血を使い、彼の命を救った。 彼が目を覚ましたとき、涙を流してこう言った。 「思葉(ことは)、こんなに深く俺を愛してくれるなら、結婚してくれないか?」 結婚後、私は一日に三つのバイトを掛け持ちした。 家計を支えたり、直木の世話をしたり、城治の化学療法の費用を稼いだりした。 私はへとへとに疲れても、文句ひとつ言わなかった。 ある日、病室の前で、城治が友人に自慢しているのを聞いた。 「思葉は俺にぞっこんだ。 信じるか?俺が破産も病気もしていないと知ったとき、彼女が最初に思ったのは、俺が苦労していなくて良かったってことだ」 私は診断書を握りしめ、手がひどく震えた。 やっと、この結婚は最初から巧妙に仕組まれた詐欺だったのだと気づいた。 そして、私は彼に「教わった方法」で完璧に反撃することに決めた。 第1話 江口城治(えぐち じょうじ)が破産した日、白血病と診断された。 私は迷わず留学のチャンスを放棄し、彼のために息子の江口直木(えぐち なおき)を産んだ。 そして、臍帯血を使い、彼の命を救った。 彼が目を覚ましたとき、涙を流してこう言った。 「思葉(ことは)、こんなに深く俺を愛してくれるなら、結婚してくれないか?」 結婚後、私は一日に三つの仕事を掛け持ちした。 家計を支えたり、直木の世話をしたり、城治の化学療法の費用を稼いだりした。 私はへとへとに疲れても、文句ひとつ言わなかった。 99回目の城治の定期検診に付き添った、あの日まで…… …… 「三年経っても、病状は改善していないのですか?」 私は不安な気持ちで診断書を医師に渡し、小声で聞いた。 神原(かんばら)医師は診断書を見ると、眉をひそめて、容赦なく私を叱った。 「患者さんの奥様ですよね。患者さんの世話をしっかりしているんですか? 診断書では、患者さんが依然として重度の貧血と判断されています。ご本人が記憶力にも影響が出ており、体力もひどく低下しているとお話しされています。 時にはカップを持つことさえできないことがあるとも言っています」 神原医師の言葉が終わると、私の心は徐々に沈んでいった。 それでも、諦めきれずに聞いた。 「完全に治す方法はないんですか?」 この3年間、私は本当に全力を尽くしてきた。 重病の城治の世話をするだけでなく、化学療法にも付き添った。 しかも、幼い息子を一人で育て、幼稚園への送り迎えもしなければならない。 家のすべての重荷が、私一人にのしかかっていた。 私は一日に三つのバイトを掛け持ち、汚くて辛い仕事ことばかりしている。そのため、毎晩十分に眠ることはなかった。 「完全に治す方法はありません。 奥様、もう少し頑張ってください。患者さんにもっと良い薬を使わせてあげてください。 少なくとも、彼の苦しみを和らげることができます」 城治が化学療法を受けて顔色が真っ青になったことを思い出した。 彼は化学療法後に苦しそうな顔をしながら、無理に笑顔を作り、申し訳なさそうに言った。 「思葉、俺、大丈夫だよ。 ごめん、俺のせいで、思葉が辛い思いをした」 私は胸が痛むようだった。 城治の代わりに苦しんであげたかった。 私はふらふらしながら診察室を出た。 神原医師の「もう少し頑張ってください」という言葉が耳に残り、しばらく消えなかった。 しかし、私がどうすべきか考える暇もなく、次の悪い知らせが続けて届いた。 スマホに届いたメッセージには、こう書かれていた。 【こんにちは、江口直木くんの検査結果が出ました。 先天性心疾患で、すぐに入院して手術を受ける必要があります。 そうしないと、命に危険が及ぶ可能性があります】 私は必死に口を押さえた。 銀行口座には、わずか12万円の残高があった。 涙が止まらず、どんどんこぼれ落ちた。 どうしても拭いきれなかった。 私は本当に理解できなかった。 なぜ、神様はこんなにも私を揶揄うのか。 最初は夫の城治が白血病になった。 そして、私の3歳の息子、直木が先天性心疾患だと診断された。 次は、私の番だろうか? 私たち家族三人、本当に地獄で再会しなければならないのだろうか? 病院の椅子に長い間座った後、私はようやくなんとか落ち着きを取り戻した。 直木の病気は軽いものではなかった。 慎重に考えた結果、私は城治にこのことを知らせるべきだと思った。 同時に、彼にも相談したいと思った。 彼に在宅勤務をしてもらい、私の負担を少しでも減らしてほしい。 江口グループが破産する前、彼は金融学と経営学の二重学位を持っていたので、少しの副収入を得ることは難しくないはずだ。 心の中のモヤが少し晴れた。 私はドアの取っ手を握り、ドアを開けようとしたその時、病室の中から笑い声が聞こえてきた。 第2話 「また思葉から201,600円を騙し取ってきたから、今夜ご馳走するよ」 「どうして端数があるんだ?城治、このお金に何か意味があるの?」 私は驚いて、ドアの隙間から中を覗き込んだ。 すると、城治が札束を持っているのが見えた。 彼はだらしなく笑いながら、何気なく答えていた。 「意味なんてないさ。 息子は今年3歳だ。支給された育児手当はこれだけ。 体を養うためにサプリメントが欲しいって、思葉に言ったんだ。そしたら思葉は躊躇せずに金をくれた」 誰かが驚きの声を上げた。 「思葉さんが城治にすごく夢中なんだな」 「俺の彼女たちだったら、病気だって聞いたらすぐに消えるだろうな」 「もし笑茉さんだったら、城治を置いていくことはないか?」 「私は城治の幼馴染だし、面倒を見ないわけがないでしょ」 唐沢笑茉(からざわ えま)は不機嫌そうにその人を睨み、城治の腕を掴んで甘えた。 「城治、ちょうどこの額で欲しい髪飾りがあるの。 このお金で買ってくれる?私へのプレゼントとして」 「笑茉が欲しいなら、断るわけないだろ」 城治は笑いながら、彼女の鼻先を指でつついた。 脳内が急に騒音で満たされ、私は爪を手のひらに食い込ませて、倒れないように必死で堪えた。 笑茉という令嬢にとって、201,600円はただの髪飾りの値段に過ぎないのだろう。 しかし、私たちのように家計が苦しい家庭では、それはほぼ三ヶ月分の生活費に相当する。 しかも、私が三つのバイトを掛け持ちして、死に物狂いで働いて得た給料だ。 城治はいつも私の苦労を心配し、私に負担をかけたくないと言っていた。 だが、なぜ彼は躊躇なくこの大金を他人に渡すことができたのだろう? 病室内では、嘲笑の声が絶え間なく響いている。 城治は病床に戻り、当然のように言った。 「さあ、これで話は終わりにしよう。思葉には真実を知られてはいけない。 たとえ俺が破産していなくても、白血病でもないことを彼女が知ったとしても、彼女は『苦しまなくて良かった』って言うだろう。それでも、俺は真実を伝えたくないんだ。 なんか、思葉が俺を十分に愛していない気がするんだ。 24時間、彼女は三つのバイトをこなし、俺と息子の面倒を見てくれているけど、それでも4、5時間は寝ている。全力を尽くしていない。 だから、俺は投資に失敗したふりをして、笑茉に1千万の借用書を渡すつもりだ。そうすれば、返済のために思葉はもう二つのバイトを掛け持ちするだろう。 もし彼女がその試練にも耐え抜いたなら、回復したという偽りの診断書を医者に作ってもらい、少しでも楽にしてやる」 みんなが再びからかい始めた。 さっきの人は耐えきれずにもう一度聞いた。 「城治、思葉さんのこと愛してるか? この数年、思葉さんが耐えてきた苦労、もう十分だと思うんだよ」 私は息が詰まった。 心臓が激しく打ち、胸の中で微かな期待がこみ上げた。 そして城治は迷うことなく答えた。 「もちろん愛してるさ。 俺は畜生じゃない。こんなに一生懸命な女を愛さないわけがないだろ? 昔、俺と笑茉は『真実か挑戦か』をして、俺は破産や白血病だという嘘をついた。そのとき、思葉はすぐに留学のチャンスを諦めて、俺の面倒を見に来てくれた。 さらに、臍帯血を取るために直木を産んでくれたときは、本当に感動したよ。 でも俺は、ずっと思ってる……思葉のために他のすべてを手放すなんて、割に合わないって。いつか俺が飽きたら、そのときに真実を彼女に告げればいい。 俺が真実を伝える前に、思葉に知られたら、お前らがどうなるか、分かってるよな!」 それ聞くと、私の胸の中にあった熱い心が、完全に冷めた。 もしも自分の耳で聞いていなかったら、城治の白血病が嘘だなんて、私は絶対に信じなかっただろう。 人は失望が極限に達すると、逆に笑ってしまうものなんだ。 私は涙を流しながら笑い、こんな自分が愚かだと感じた。 そして、信じる相手を間違えた自分自身を、よりいっそう恨むのだ。 どれくらい経ったのだろう。 親友からビデオ通話がかかってきた。 耳障りな着信音が鳴り響き、病室の中にざわめきが起こった。 真っ先に聞こえてきたのは、城治の慌てた声だ。 第3話 「ドアの外に誰がいる?!」 心臓が飛び出しそうだった。 私は慌ててあちこちに逃げ込み、女性用トイレに隠れた。 病室の数人が外に出てきて、通りがかった看護師のスマホの着信音だと勘違いした。 それを見ると、私はようやく一息ついて、電話に出た。 画面の向こう側にいる鈴木汐(すずき うしお)は、焦りの声で話していた。 「思葉、母さんが直木の検査結果を教えてくれたんだけど……大丈夫?」 私は首を横に振った。 彼女はさらに言った。 「国内でこんな難易度の高い心臓手術ができる医者は少ないけど、私、こっちでちょうど知り合いがいるの。 直木をM国に連れて来て。私は必ず治してあげる。 費用のことは心配しないで。昔、私が人身売買に巻き込まれかけたとき、思葉が命を救ってくれた。だから、絶対にお金を取らないよ」 真実を聞いた時、私は泣かなかった。 この3年間、私は必死に働き続け、一度も文句を言わなかった。 でも今、汐の気遣いを耳にすると、私は抑えていた感情が崩れ、涙が止めどなく流れた。 しばらくして、かすれた声で答えた。 「ありがとう。でも、ビザを申請しなきゃいけないから、お願い、推薦状を書いてくれる?今月末に直木と一緒に行くつもり」 電話を切った直後、城治から電話がかかってきた。 「思葉、どこにいる?」 彼はわざと弱々しく声を変えて、試すような口調だったが、その疑いのある声が隠しきれなかった。 「会いたいんだ。今回の化学療法は本当に痛くて、来てくれないか?」 やっぱり、彼は疑っていた。 私は涙を拭き、罪悪感で彼に言った。 「さっき診察室で医者と話していた。 城治、私は後悔してる。やっぱり、もっとバイトを掛け持ちすべきだったの。 そうしたら、あなたが今こんなに痛い思いをしなくて済むから」 城治はようやく安心し、重荷が下りたような口調で言った。 「思葉のせいじゃない。俺の身体が弱かっただけだ」 私は静かに聞いて、言葉を返さなかった。 ただ、「今、向かっているところ」と言い、電話を切った。 画面が再び明るくなり、「夫」という名前が表示されたその番号が、皮肉に感じられた。 3年間深い愛情で結ばれた結婚も、結局は私の一方的な思いだったのだ。 でも城治、あなた一人だけが嘘をつくわけじゃない。 もし、幼い息子があなたのせいで命を落としたら、その時、真実を知ったあなたは、どうなるの? 崩壊しないの? …… 私が病室のドアを開けたとき、そこにいるみんなは、いつも通りの顔をしていた。 昔、城治が何度も重篤な状態になった時、彼の命を救うために、私はその人たちにお金を貸してほしいと必死に懇願した。 その中でも、最初に笑茉に助けを懇願した。 この私立病院は彼女の家のものだから。 城治を救うため、私は笑茉に小間使いのように付き従い、土下座することさえ厭わなかった。 今になって、そのことがおかしいと感じ始めている。 名家では常に上下関係が厳しいはずなのに、それらの人々の態度には妙な違和感がある。 どことなく城治を中心にしているようだ。 最初は一緒に育った仲間だから、本当の親友だと思っていた。 結局のところ、皆が示し合わせて私を欺き、笑いものにしていただけに過ぎなかった。 「思葉、会いたかった。 化学療法、本当に痛いよ。慰めてくれないか?」 城治は甘えて声を出した。 もし普段なら、私はとっくに心配して、彼を慰めていただろう。 そして、残業してもっと稼ぎ、彼に栄養のある食事を作ってあげると決心しただろう。 だが今回は、私はその場で動けなかった。 彼が何かおかしいと気づき、突然顔を上げたとき、私は彼に微笑んで、言葉を発した。 「城治、今の体調なら、家で仕事してもいいかな? この間、私は本当に疲れてる。毎日あなたの世話をするだけでなく、直木の送り迎えもしているの。しかも、掃除員やホールスタッフの仕事までして、腰が壊れそう。 あなたに迷惑をかけたくないけれど、直木が病気で、先天性心疾患……」 城治の顔色が変わった。 今まさに慌てて身を起こし、直木に何があったのかと尋ねようとしていた。 第4話 笑茉が先に口を開き、私の言葉を遮った。 「思葉さん、そんなことして面白いと思ってるの?」 彼女は非常に不機嫌そうで、まるで私を叱るような口調だった。 「城治のような高嶺の花が、あなたと結婚したのよ。大切にしないの? 城治を無理やり働かせようと、直木が病気だなんて嘘をつくとはね。 忘れないで、この病院はうちのものよ。直木が本当に病気かどうか、私の方がよく知ってる」 彼女の言葉が終わった瞬間、城治の目にあった同情の色が消えた。 彼は無力感を漂わせて、私を見つめていた。 「思葉、直木のことで冗談はやめてくれ。 本当にお前を助けたいんだ。お前が毎日必死に働いてるのを見て、俺も心が痛む。でも、俺の体も悪いのは知ってるだろ?」 そう言いながら、彼は急に話題を変えた。 「直木も今年で3歳だし、だいぶ大きくなった。 友達が言うには、彼は俺に似てないって。俺の息子じゃないんじゃないかって、疑ってるみたいだ……」 たとえ、彼の醜悪な本性をすでに理解していたとしても、すでに心の準備はしていたとしても、この言葉を聞いた瞬間、私は体が震えて止まらなかった。 「私が臍帯血であなたの命を救ったのよ。それでも、直木があなたの息子じゃないって言うの? その言葉を口にした時、それが滑稽だと思わなかったの?」 城治は目をそらし、私の方を直視する勇気もなかった。 彼の白血病は嘘だ。 臍帯血なんて、もちろん使われていない。 だが私から見れば、これは完全に名誉毀損だ。 城治もその不自然さに気づいたのか、私が涙ぐみそうになっているのを見ると、慌ててベッドから降りてきて私を慰めようとした。 しかい、私は彼を突き放し、毅然と言った。 「もし疑うなら、親子鑑定をして、あのうわさ話を黙らせてしまおう」 「思葉、愛してる」 城治は感動したように言い、さらに急かすように言った。 「もうすぐ幼稚園が終わるから、直木を迎えに行ってきて」 病室を離れたが、私は急いで帰らなかった。 ドアの外で数分待ち、病室内からの議論を聞いていた。 「うわ、思葉さんは病室から飛び出して、『城治、私を信じてくれないの?!』って叫ぶべきじゃないの?どうしてあんな冷静な反応だったんだ?」 「俺が賭けてた通りだ。思葉さんは親子鑑定をするって言ったよ。笑茉さん、ご飯奢ってよ!」 笑茉もまた、半ば呆れていた。 「城治、思葉さんはあまりにも素直すぎるよね。私たちが言った通りになっちゃうんだ」 ああ、これもまた、真実か挑戦かのゲームだったのね。 …… 私は急いで幼稚園に向かい、直木を迎えに行った。 家に帰る準備をしていたとき、彼は真剣な顔で首を振った。 「ママ、まだ太陽は沈んでないよ! 僕、ゴミ漁りをして、パパの薬代を稼ごうよ。 パパが治ったら、ママはもうこんなに辛くないよ。直木、ママが辛くなるのが嫌だよ」 たった数言で、私は堪えきれずに直木を抱きしめ、声をあげて泣いてしまった。 直木はまだ3歳なのに、とても大人びていた。 彼はいつも私を気遣ってくれた。 私が仕事から帰ると、いつもお風呂を入れてくれていた。 ご飯を作るときは、「何でもいいよ。ママは無理しないで」と言ってくれた。 本来、心配や悩みのないはずだった彼が、私の衝動的な決断のせいで、こんなにも苦しんでいる…… 幸い、今ならまだ間に合う。 涙をこらえながら、私はかがんで直木の顔を撫で、笑顔で話しかけた。 「直木、大丈夫。ママにはお金ができたから、もうゴミ漁りしなくていいんだよ。 でも、これを秘密にしていてね、いい?」 直木は嬉しそうに頷いた。 それからいつも通り、直木を汐の実家に預けた。 私はまたアパートに戻り、ベッドの下から精巧な木箱を取り出した。 そして、地元で一番有名な質屋に向かい、城治の母親が最期に私に贈ってくれたブレスレットを売ってしまった。 第5話 6千万円だ。 まるまる6千万円だ。 以前、私はそれを城治のために取っておこうと思って、決して手を付けるつもりはなかった。 でも今、私は自分が愚かだったと感じる。 早くそれを売っておけば、直木はこんなに苦しまずに済んだのだ。 でも、今はそのことを言っている場合ではない。 私は必要な資料を準備し、大使館でビザを申請した。 そして、三つのアルバイト先を辞めた。 給料をもらったとき、上司はなんと1万円余分に渡してくれた。 「君は手早くてよく働くからさ。君が辞めるのを本当に惜しいと思っている。 でも、君一人で働き続けるのはあまりにも辛い。だから、無理に引き止めるわけにもいかない。 石元さん、これからはもっと自分のことを考えなさい。 家族に足を引っ張られないようにな」 私は笑顔で感謝して、お金を受け取ってから、その場を離れた。 その後、私は再び病院に向かい、直木の髪の毛を持って城治と一緒にDNA親子鑑定を受けに行った。 後ろには、城治の友人たちが一歩も離れずついてきた。 彼らは目を見交わしては、おかしな表情を浮かべながら言った。 「やばい、ほんとに来たよ」 「この女、本気で証明したいみたいだ」 「笑えるなぁ」 彼らはひそひそと話していたが、私は大体の内容を聞き取ったものの、あえて知らんぷりをして、スタッフに向かって言った。 「この親子鑑定、急いでお願いします。いくらでも払います」 スタッフはサンプルを持って中に入り、慌ただしく一言だけ残して出て行った。 「2時間ほどかかります」 城治の友人たちはさらに大声で笑った。 「ただの冗談でこんな大げさになるなんて」 「さすがに貢ぐ女だな。次、どう揶揄うだろう」 「あいつ、自分の月給がいくらだと思ってるんだ?『いくらでも払います』って、ほんとに偉そうに」 「人を弄ぶって、最高だな!」 ほどなく、スタッフが戻り、報告書を城治に渡した。 「鑑定結果が出ました。 江口城治が直木の本当の父親だとわかりました」 この結果に、誰も驚かなかった。 城治の友人たちは肩を組んで、食事に行こうと約束した。 しかし私は突然、城治の袖を引っ張った。 そして真剣に、ゆっくりと言った。 「私の潔白は証明されたよ。 それなら、直木の治療費1千万も私に渡してくれるよね?」 私の言葉がまだ終わらないうちに、笑茉が口を開いて遮った。 「思葉さん、そんな方法で金をせびるべきじゃないのよ。 忘れたの?この病院はうちのものだよ。直木が病気だって言うなら、私が知ってるはずじゃない?」 彼女は冷たく笑った。 「まさか、辛い生活に耐えきれなくなって、お金をだまし取って逃げるつもりなの?」 その言葉を聞いた時、城治が私にお金を振り込もうとした手が止まった。 彼は何も言わず、スマホの画面を消した。 そして、私の涙で赤くなった目をじっと見つめて、心の中で不安を押し込めようとしていた。 彼は冷ややかな声で言った。 「思葉、金が欲しいなら、素直に言えばいいじゃないか。なぜ直木を口実にするんだ?」 私は何度も頭を振りながら、彼の袖をつかんで、必死に哀願した。 「違う、違うの…… 直木、本当に病気なんだよ。彼は私の大切な宝物よ。城治、どうして信じてくれないの? 病院が診断書を送ってきたの。見せてあげるから、お願い、信じて……」 私は言葉を詰まらせ、診断書を彼に見せようとしたその瞬間、突然電話がかかってきた。 その内容を聞いた瞬間、私はその場で力なく崩れ落ちてしまった。 そして城治は、ようやく何かがおかしいと気づき、慌てて私に質問した。 「思葉、直木はどうしたんだ? 直木が病気だっていうのは、俺から金を騙し取ろうとしての嘘なんじゃないのか?」 私は絶望を目に浮かべ、かすれ声で告げた。 「直木が今、心臓病で発作を起こして……亡くなったの」

More GoodNovel Novels