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初恋に溺れた夫、義母に追い出される
結婚して一年、私は妊娠した。 佐藤慎也(さとう しんや)は私をお姫様みたいに甘やかしてくれた。 お義父さんもお義母さんも佐藤家の恩人だと言ってくれていた。 私はずっと、こんな暖かい家族にめぐり会えて、自分はなんて幸せなのだろうと思っていた。 あの日、あんなことが起こるまでは。 私はやっと、すべては仕組まれた嘘だったと気づいたのであった。
チャプター (1)
第1章
結婚して一年、私は妊娠した。
佐藤慎也(さとう しんや)は私をお姫様みたいに甘やかしてくれた。
お義父さんもお義母さんも佐藤家の恩人だと言ってくれていた。
私はずっと、こんな暖かい家族にめぐり会えて、自分はなんて幸せなのだろうと思っていた。
あの日、あんなことが起こるまでは。
私はやっと、すべては仕組まれた嘘だったと気づいたのであった。
第1話
結婚して一年、私は妊娠した。
佐藤慎也(さとう しんや)は私をお姫様みたいに甘やかしてくれた。
お義父さんもお義母さんも佐藤家の恩人だと言ってくれていた。
私はずっと、こんな暖かい家族にめぐり会えて、自分はなんて幸せなのだろうと思っていた。
あの日、あんなことが起こるまでは。
私はやっと、すべては仕組まれた嘘だったと気づいたのであった。
妊娠してから私はやたら眠くなるようになった。
一日二十四時間のうち、10時間以上寝てしまうこともザラだ。
その日は昼間に水を飲みすぎたせいか、眠っている途中で尿意で目が覚め、トイレへ行こうとベッドから起き上がろうとした。
しかし電気をつけると、隣で寝ているはずの慎也の姿がないことに気がついた。
名前を呼んでみたが返事がなく、部屋にいる気配もない。
スマホを見ると、すでに深夜一時をすぎていた。
こんな時間に、慎也はどこへ?
少し気にはなったが、深く考えずにトイレを済ませ、またベッドに戻って眠ろうとした。
でも、慎也が帰っていないせいか、どうにも落ち着かず、浅い眠りを繰り返した。
さらに夜も更けた頃、突然ベッドが沈む感覚と同時に、鼻先にふわりと桃の甘い香りが漂ってきた。
私は一瞬で目が覚め、胸の奥がドクンとはねた。
妊娠中は夫の浮気が増える、ネットでよく見る話だ。
妻が妊娠中は性行為が難しくなるため、外でつまみ食いする男がいると。
まさか、慎也も外で食べてきた?
いやそんなわけない、慎也は性欲に振り回されるタイプじゃないし、結婚後の頻度だって決して高くなかった。
でもじゃあ他に何が?
なによりあの香水の匂いはどう説明すれば?
考えているうちに、私はまた眠気に負けてしまった。
翌朝、目が覚めてから昨夜のことを聞くと、慎也は一瞬だけ固まり、それからすぐに「会社の同僚がどうしても急ぎの書類が必要だったから、夜中に届けに行ったんだ」と答えた。
説明自体はおかしくないが、どうしても胸のざわつきが消えなかった。
それから少し注意して様子を見ていると、確かに慎也は最近どこかおかしかった。
慎也の帰宅はどんどん遅くなり、家に戻ってからトイレに篭る時間もやたらと長くなった。
男の人にとってトイレは第二の家だという話は聞くが、それにしても長すぎる。
そして何より、私が近づくと、必ずと言っていいほどスマホの画面を切り替える。
あの夜のことと合わせて考えれば、怪しいとしか思えなかった。
そこで、慎也がシャワーを浴びるためにスマホを手放したタイミングを見計らい、私はこっそり中を確認したが、何も見つからなかった。
私の勘違い……?
そう思いかけた頃、慎也が「今日は残業だ」と言った日、帰ってきた彼の体からまたあの桃の香りがした。
とても薄い、洗い流した後のような残り香だったが、私はもともと嗅覚が鋭く、そのわずかな匂いをはっきりと感じ取った。
そしてその夜、ついに証拠を見つけた。
彼のラインが、パソコンの方でログアウトされていなかったのだ。
画面には、一番上に固定されたうさちゃんというアカウントとのトーク。
そこには最新の二つのメッセージが残っていた。
一つ目はうさちゃんの【もう、狂いそう】、そして慎也の返事は、【あと少し我慢して。仕事が終わったらすぐ会いに行く】。
私が震える指でチャット履歴を遡ろうとしたその瞬間、ラインが強制的にログアウトされた。
慎也がスマホ側で何か操作したのだとすぐに悟った。
彼はいつも慎重な人だ。
今回パソコンにログインしっぱなしにしていたのは、私が妊娠後期で、パソコンは放射線があるから触らないと思っていたからだろう。
第2話
頭の中がぐちゃぐちゃだ。
慎也が不倫した?
その事実に至った瞬間、涙がこぼれ落ちた。
どういう感情なのか自分でもわからず、ただ苦くて辛くて、胸が締め付けられた。
こういうのは初めてではない。十年前に母も同じ目に遭っていた。
当時父は外の女に夢中になっていて、母と離婚したいと騒ぎ立てた。
母が拒否すると、父は勝手に家を出て別の場所で暮らし始めた。
とうとう、家の中は大荒れになってしまった。
母はどうしようもなくなって離婚を受け入れ、私の親権以外何も求めなかった。
父はそれを聞くや否や喜んでいた。
離婚後の十年、私と母は二人で寄り添って生きてきた。
私はやっと結婚して、妊娠して、慎也の家族にも大切にしてもらえて、
自分もようやく幸せになれたと思っていたのに、全部水の泡だ。
慎也のこれまでの優しさは全部嘘だったの?
一日中泣き続け、目はくるみのように腫れ上がった。
帰ってきた慎也にその顔を見られた。
慎也は一瞬固まり、「結衣(ゆい)、どうしたんだ?何かあったのか?」と聞いてきた。
私はテレビを指差し、「悲しいドラマを見てて……主人公が可哀想で、つい泣いちゃったの」と誤魔化した。
慎也はほっと息をつき、近づいてきて、そっと私を抱き寄せた。
「本当に感受性が強いんだから。テレビなんて全部作り話なのに、女性ってこういうの見るの好きだよな。ほら、街角の店のクッキーを買ってきたから、早く手を洗っておいで」
慎也の声も仕草も優しいのに、私の胸は苦しさでいっぱいだった。
あのラインのメッセージを見なければ、慎也のことを疑うこともなかったのに。
慎也が外で他の女とそういうことをしていたと思うと、吐き気で食事も喉を通らない。
慎也は私のつわりが急にひどくなったと思ったらしく、私も適当な理由で誤魔化した。
少なくともあの女が誰なのか突き止めないと。
翌朝、慎也は朝早くに出勤した。
彼が家を出たあと、私は急いで身支度を済ませて会社の近くまで後をつけた。
妊娠してから、慎也の勧めで私は仕事を辞めた。
慎也が「俺の稼ぎで十分だから、結衣が外で嫌な思いをする必要はない」と言ってくれたのだ。
だから今の私には時間がたっぷりある。
何日か観察したが、慎也は会社と家の往復のみで規則正しく、怪しい行動はなかった。
誰が見ても理想の夫だった。
一週間後、慎也が「今日は遅くまで残業だ」と言った夜までは。
私は慎也が車でホテルに向かうのを見てしまった。
ホテルの近くで延々と待ち続け、もう限界だと思った頃。
ロングスカートをはいた女と共に慎也が出てきた。
その女は細くて、白くて、帽子を目深にかぶっていた。
腕を絡ませ、二人は恋人のように寄り添っていた。
風でその女の髪が乱れると、慎也はそっと髪を耳にかけてやった。
その優しげな慎也の仕草に私は震えが止まらなかった。
何より、私はその女を知っていた。
結婚式の時、参列者席でこちらをじっと見ていたあの女だった。
その時私は不思議に思って慎也に聞いたのだ。
慎也は「石井綾香(いしい あやか)っていう大学の同期だよ。作家で感受性が強いから、きっと俺たちの幸せな姿を見て感動したんだろう」と言っていたのだった。
第3話
その時私は嬉しくて、石井綾香に酒を一杯注いであげた。
彼女は飲み干すと泣き出して、「あなたたちがずっと幸せでいられますように」と言った。
今思えば、その涙は祝福などではなく、私が慎也と結婚したからこその涙だったのだ。
私は慎也の友達をほとんど知らないし、彼も私を友人の集まりに連れて行ったことがない。だから彼の周りから情報を得るのはまず不可能だった。
そこで私はサブ垢を使い、慎也の友達から彼女のペンネームを聞き出してネットで検索した。
驚いたことに、彼女の情報はネットにたくさん出てきて、かなり有名なネット小説の作者なようだ。
彼女の作品は全部で五冊、ざっと読んだがどれも甘やかされ妻系の小説ばかりだ。
文体は繊細で最新作は『青春のあと』というタイトルだった。
開いて読んでみると、大学生活を舞台にした男女の恋愛物語で、主人公の女は感受性の強い小説家、男は両親が公務員の保守的な家庭育ち。
慎也の家族構成と全く同じだ。
物語では、二人は大学卒業後、男の方の親の反対で結ばれなかった。
しかし二人は互いを忘れられず、男の方はその後結婚したものの、妻は難産で亡くなり、子供が一人残された、と書いてあった。
そして二人は再び運命に導かれるように結ばれる、そんな展開だった。
どういうわけか、私にはその物語が石井綾香と佐藤慎也の話にしか思えなかった。
そして物語の中の早死にする佐藤の妻、それが私の役割なのだろう。
そう思った瞬間、吐き気がするほど気分が悪くなった。綾香は自分を清らかなヒロインとして描き、私のことは男を奪って死ぬ悪役扱いだった。
最後は難産で死ぬなんて、どれだけ私を馬鹿にすれば気が済むのだろうか。
小説の読者グループを辿っていき、ついに私は石井綾香のサブ垢を見つけた。
そこには彼女の本音が大量に記録されていた。
最初の投稿は数年前のものだった。
【私の彼は本当に優しい。私に家事は一切させないし、皮付きの果物なんて食べさせられたことがない。渡してくれる水はいつでも蓋が開いていて、私が行きたい場所にはどこへでも付き合ってくれる。彼はいつでも私を支え、理解してくれる】と書かれていた。
次の投稿では綾香は【別れた】と書いていた。
理由は【私は体が弱いし、先天性の心臓病があって子供が産めない。でも彼の家族はとても保守的で、しかも彼は一人息子。三代続く跡取りだから……】とのことだ。
三つ目の投稿では【彼が結婚した】と書いていた。
そして最後の投稿には【彼とまた復縁した。今は佐藤さんと呼んでいる】と。
【佐藤さんの妻は妊娠している。でも子供が生まれたら離婚するって言ってくれた。そして私と結婚するって】
【時々嫉妬しちゃって、わざと身体にあとを残したりしちゃうけど】
【でも我慢する、だってあの女のお腹の中の子供は私と佐藤さんの子なんだから。あの女は私の子を代わりに産んでるだけ。子供は私のことを『ママ』って呼ぶんだから】
読み終えた瞬間、全身が震えて、心臓が谷底へ落ちたように冷たくなった。
まさか私と慎也の結婚が、最初から仕組まれた茶番だったなんて。彼は一度たりとも私を愛したことなどなく、私はただ彼らの遊びの一部として利用されていただけだった。
彼の日頃の優しさは、すべてお腹の中の子どものために過ぎなかったのだ。
きっと彼は、子供が生まれたら適当な理由をつけて私と離婚すると前から決めていたのだろう。
そして私の子供を連れて、自分の永遠の恋人と結婚するつもりだったのだ。
第4話
ここまで考えたところで、歯が砕けそうなほどの悔しさが込み上げてきた。
慎也こそが私を深い闇から掬い上げてくれる人だと思っていた。私は彼を愛していたし、彼のいうことならなんでも聞けると思っていた。
でも今になって、私と慎也の出会い自体が、最初から仕組まれていたのではと思う。
あの頃、私と慎也は同じ会社にいて、私は慎也が担当するインターン生だった。
幼い頃から家庭環境が良くなかった私は、いつも自信がなく、仕事で理不尽な扱いを受けても反抗できなかった。
そんな私をずっと助けてくれたのが慎也で、時間が経つにつれて、私は彼を好きになっていた。
やがて彼が告白してくれて、私たちはすぐに結婚した。
もしかしたらその時点で、田舎から出てきた気弱な女で、不公平な扱いを受けても言い出せないような私は、すでに慎也の獲物になっていたのかもしれない。
私ほど都合のいい道具に向いた人間はいないだろう。
でも、追い詰められればウサギだって噛みつくし、操り人形だって怒る時もある。まさか私が永遠に泣き寝入りするとでも思ったのか?
私と母を裏切った父が今どれだけ悲惨か、第三者は知らないのだろう。
私はもともと優しい人間なんかではない。
この世で一番許せないものは裏切りなのだ。
一度にあまりに多くを知りすぎたせいで、私はそのまま倒れてしまった。
39度の高熱が出た。
慎也は「どうして急に熱が?」と慌てふためいていた。
その心配そうな顔にも、彼の本性を知っていなければ、私はまた騙されていただろう。
私は掠れた声で「薬とってきて」と言った。
慎也は困ったように「結衣、妊婦は薬を飲めないよ、赤ちゃんに良くないから」と返した。
やはり慎也が気にしているのはお腹の子供だけだ。私は目を閉じ、それ以上何も言わなかった。
それでも、私が本当に危険な状態だと思ったのか、慎也はアルコールで私の身体を拭いてくれた。
翌日になってようやく熱が下がった。
慎也も一晩中付き添ってくれて、大きなクマのせいか酷く憔悴して見えた。
彼は掠れた声で「よかった……結衣、やっと熱が下がったね」と言った。
「さっき友達から電話があって、ちょっと出てくる、またすぐ戻るよ」
「ゆっくり休んでて。何か美味しいものを買って帰ってくるから」
慎也がシャワーを浴び、身なりを整えて車で出ていく様子を、私は冷ややかな目で見ていた。
その頃。
石井綾香がサブ垢で【妊娠してる女ってめんどくさすぎ。なんにでも男をつき合わせて、私の彼氏まで独占してる】と文句を投稿していた。
【昨日はずっとあの女に付き添ってたんだから、今日は私に付き合うのが公平でしょ】と彼女は続けた。
何が公平だというのだろうか。昔どれだけ将来を誓い合っていようと、今の慎也の妻はこの私で、彼女はただの愛人に過ぎない。彼女に私への文句を言う資格があるとでもいうのか。
私はこの女を絶対に許さない。
原因を作った慎也も。
慎也が出て行ったあと、私は起きてシャワーを浴びようとした。
しかし、寝室を出た途端、熱のせいで身体がふらつき、足に力が入らず、私はそのまま床に倒れてしまった。
すぐに腹部を激痛が襲い、足の間を何かが流れ落ちてくる感覚がした。
早産だと直感した。
必死で寝室に戻り慎也に電話をかけたが、何度かけても繋がらず、やがて電源が切れた。
私は母に電話するしかなかった。
次に目を覚ました時、私は病院にいた。
私は双子を産んでいて、男の子が兄で女の子が妹だと言われた。
早産だったため子供二人の身体は弱っていて、二人とも保育器に入っていた。
第5話
その頃には慎也も義両親もすでに病院に駆けつけてきていた。
慎也は悪いことをして叱られている子供みたいに頭を下げ、私の母に必死に弁明していた。
突然の事態だっただけに、母は慎也がその場にいなかったことをずっと根に持っていた。
「妊娠後期で、しかも一晩中高熱に苦しんだ結衣を一人残して出かけるなんてありえない。どうしても外せない事情があったとしても、電話に出ないのは論外だ」母はそう憤っていた。
あの時母が駆けつけてくれなかったら、私も赤ちゃんも死んでいたかもしれないのだ。
義両親も当然、慎也が悪いとわかっていて、しばらく彼を叱りつけていた。
慎也も自分が悪い自覚はあるのか、ずっと俯いたまま、謝ろうと近づいてきたが、私は顔を逸らして無視した。
髪は乱れ、無精髭が伸び、服はシワだらけ、それに微かに香水の匂いがした。
その姿を見るだけで、汚らわしく感じた。
私が電話したあの時、彼が何をしていたかなど言わなくてもわかる。
慎也が私を傷つけたことは、時間が経てば、もしかしたら許せたかもしれない。
でも彼は子供までをも危険に晒したのだ、これだけは絶対に許せない。
いずれにせよ、慎也と両家の親から見れば、私は慎也と冷戦状態に入ったようだった。
その雰囲気のまま私は退院して家へ戻った。
義両親は「素人の自分たちでは不安だし、嫁姑問題が起きても困る」と相談し、二人の産後ケア専門の家政婦を雇い、慎也が私の世話をすることにした。
そうすれば少しは夫婦の関係も和らぐだろうと考えたようだった。
家政婦のおかげもあり、産後一ヶ月で私はすっかり体調を取り戻した。
赤ちゃんたちも順調に育っていて、兄は元気いっぱい、妹はおとなしく、二人ともふっくらしていて可愛らしい。
お礼として、私は家政婦たちに少し多めに包んだチップを渡した。
この期間、慎也はやたらと張り切っていた。初めて父親になった喜びで、一日中赤ちゃんのそばにいたがり、必死にパパと呼ばせようとしてた。
その様子を見るたびに、胸がキュッと締め付けられるように苦しかった。
もし慎也が不倫なんてしていなければ、私たちはどれほど幸せだっただろう。
けれど外面だけの優しさに騙されてはいけないのだ、あの二人はいつでも私を排除しようとしているのだから。
今のうちに身体を回復させ、これからどう動くか考えなくてはならない。
赤ちゃんが生後一ヶ月を迎えてから、慎也の友人たちが時々お祝いに訪れてくるようになった。
祝福に来てくれるのだから私も嫌ではなかった。
あの日、石井綾香が来るまでは。
石井綾香は罠のような笑顔で、いくつもの紙袋を提げてやってきた。
「赤ちゃんたちへ初めましてのプレゼントです」と言いながら。
どうやら彼女は慎也に知らせずに来たようで、玄関で彼女の姿を見た瞬間、私は確かに慎也の全身が固まったのを感じた。
面白いものが見られそうだ。
「慎也、彼女が持っている果物早く受け取ってあげて、重そうだよ」
わざと甘ったるい声を出し、自分でも気持ち悪くなるほどベタベタした口調で慎也の腕に絡んだ。
綾香の表情が一瞬こわばったが、すぐに平静を取り戻して、「仲がいいのね、羨ましいわ」と皮肉っぽく言った。
そう言った後、綾香はチラリと慎也を横目で見た。
慎也の顔はますます固まった。
ぎこちない足取りで、二人は寝室の方へ向かった。
二人からは通じ合っている雰囲気が漂っていて、隠す気がないのかと呆れるほどだった。
綾香が赤ちゃんを見る目だけは本当に嬉しそうだった。
どうせ自分もそのうち楽に母親になれるとでも思っているのだろう。今この瞬間も、私の子供たちをまるで自分の子供かのように見ているに違いない。
娘の名前が真美だと聞くと、「普通すぎるんじゃない?もっと凝った名前にすれば?」と口を挟んできた。
私は思わず白目を剥いた。
ずっと妙にハイテンションだった彼女が急に言い出した。
「やっぱり試験管ベイビーていいわね、一度で男女揃うんだもの、二回も苦しまなくて済むし」