手術を99回延期された私、ついに復讐の鬼と化す

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手術を99回延期された私、ついに復讐の鬼と化す

GoodNovel 完結

グリオーマを患い、私の命は風前の灯火だった。 だが幸運なことに、夫の桐生蒼介(きりゅう そうすけ)が天才脳外科医だ。 国内でこの手術を成功させられるのは、彼しかいなかった。 にもかかわらず、蒼介は私の手術を99回も強引に延期したのだ。 そのすべてが、白石莉乃(しらいし りの)の「頭痛」を理由とする中断だった。 腫瘍は想像を絶するスピードで肥大化していく。 99回目のこと。骨の髄まで響くような癌の痛みに耐えかね、私は膝を突いて彼に哀願した。 「蒼介、もうこれ以上延期しないで。私、本当に限界なの……」 しかし蒼介は私を一瞥だにせず、きびすを返した。 「結衣(ゆい)、いい加減にして。俺は医者だ。すべての患者に責任を持つ義務がある」 癌の激痛が瞬時に私を飲み込み、頭が張り裂けそうなほどの苦しみの中、私は声を上げて泣き叫ぶしかなかった。 手に検査結果を握りしめた看護師が、首を振ってため息をつく。 「これ以上は限界です。今週中に手術をしなければ、手遅れになる可能性が……」

チャプター (1)

第1章

グリオーマを患い、私の命は風前の灯火だった。 だが幸運なことに、夫の桐生蒼介(きりゅう そうすけ)が天才脳外科医だ。 国内でこの手術を成功させられるのは、彼しかいなかった。 にもかかわらず、蒼介は私の手術を99回も強引に延期したのだ。 そのすべてが、白石莉乃(しらいし りの)の「頭痛」を理由とする中断だった。 腫瘍は想像を絶するスピードで肥大化していく。 99回目のこと。骨の髄まで響くような癌の痛みに耐えかね、私は膝を突いて彼に哀願した。 「蒼介、もうこれ以上延期しないで。私、本当に限界なの……」 しかし蒼介は私を一瞥だにせず、きびすを返した。 「結衣(ゆい)、いい加減にして。俺は医者だ。すべての患者に責任を持つ義務がある」 癌の激痛が瞬時に私を飲み込み、頭が張り裂けそうなほどの苦しみの中、私は声を上げて泣き叫ぶしかなかった。 手に検査結果を握りしめた看護師が、首を振ってため息をつく。 「これ以上は限界です。今週中に手術をしなければ、手遅れになる可能性が……」 第1話 グリオーマを患い、私の命は風前の灯火だった。 だが幸運なことに、夫の桐生蒼介(きりゅう そうすけ)が天才脳外科医だ。 国内でこの手術を成功させられるのは、彼しかいなかった。 にもかかわらず、蒼介は私の手術を99回も強引に延期したのだ。 そのすべてが、白石莉乃(しらいし りの)の「頭痛」を理由とする中断だった。 腫瘍は想像を絶するスピードで肥大化していく。 99回目のこと。骨の髄まで響くような癌の痛みに耐えかね、私は膝を突いて彼に哀願した。 「蒼介、もうこれ以上延期しないで。私、本当に限界なの……」 しかし蒼介は私を一瞥だにせず、きびすを返した。 「結衣(ゆい)、いい加減にして。俺は医者だ。すべての患者に責任を持つ義務がある」 癌の激痛が瞬時に私を飲み込み、頭が張り裂けそうなほどの苦しみの中、私は声を上げて泣き叫ぶしかなかった。 手に検査結果を握りしめた看護師が、首を振ってため息をつく。 「これ以上は限界です。今週中に手術をしなければ、手遅れになる恐れが……」 泣き声がふいに喉の奥で詰まり、私は冷たい床にへたり込んだ。 だが口角は勝手に吊り上がり、凄惨な笑みを浮かべてしまう。 私はいったい、どこまで愚かなのだろう。 彼の目に莉乃しか映っていないことも、私の生死など彼にとって取るに足らないことも、わかっていたはずなのに。 それでも、わずかな哀れな幻想を抱き、自分の命を賭けてまで彼を信じようとしたのだ。 今回ばかりは、本当に待つ余裕などない。 震える手で電話をかけ、私はむせび泣きながら口を開いた。 「治験グループに入ります。三日後、迎えの手配をお願いします」 通話を終えた後、痛みを堪え、ふらつく足取りでベッドに這い上がった。 また、前の98回と同じように待たなければならないのか。 彼が莉乃をなだめすかし、香水の匂いを漂わせながら、のんびりとやって来るのを待たなければならないのか。 そして「結衣はまたすねててね」と、事もなげに言い放つその瞬間を待たなければならないのか。 まるで最初から最後まで、私ひとりが理不尽に騒ぎ立てているかのように。 天井をじっと睨みつけながら、手術が延期されるたびに見せた、蒼介のあの冷淡な表情を思い出す。 なのに、かつての彼は決してあんな風ではなかった。 私の腫瘍が見つかったと知った時、蒼介は私を抱きしめて一晩中泣き明かしたのだ。 「結衣、どんな代償を払っても、絶対に治してみせるよ」 その後、彼は苦心してつくり上げた会社を売却し、ためらいなく医学の道へと進んだ。 特効薬の研究開発のため、ほぼ全財産をつぎ込んだのだ。 破産してでも私を救おうとしていたあの蒼介が、どうしてこんな風になってしまったのだろうか。 莉乃のたった一言のために、私をじわじわと死に追いやろうとするなんて。 過去と現実の記憶の欠片が、脳内で狂ったようにぶつかり合う。 私を抱いて泣き喚いた蒼介と、私を手術室に置き去りにした蒼介。 いったいどちらが、本当の蒼介なのか。 突如として頭痛が激化し、無数の蟻が頭蓋骨を食い破るかのような激痛に全身が痙攣する。 「看護師さん……看護師さん! 痛み止め!早く痛み止めをちょうだい!」 喉が裂けるほど叫び、冷や汗と涙が混ざり合って流れ落ちながら、目の前が何度も真っ暗になった。 駆けつけた看護師は、目を泳がせて私と視線を合わせようともせず、言葉を濁した。 「結衣さん……痛み止めの在庫が、その……少し足りなくて」 「足りないって?」 弾かれたように上半身を起こし、ぼやける視界の中で彼女を睨みつける。 だが看護師は、後ろめたそうに俯いたままだ。 次の瞬間、凄まじい怒りに全身が震え上がった。 痛み止めすら出し渋るなんて。蒼介は、私がのたうち回って死ぬのを見届けるつもりだろう…… 絶望のあまり、私は壁に激しく頭を打ちつけた。鈍い衝突音が看護師の悲鳴を掻き消す。 「蒼介!私が死ぬのを、最後まで見ていればいい!」 看護師は肝を潰し、飛びかかって私の腰に必死にすがりついた。 「結衣さん!やめてください!今すぐお薬を探してきますから!絶対探してきますから!」 薬局にすらないのに、どこで探すというのか。 なおも振り切って壁にぶつかろうと暴れる私の背後で、病室のドアが「バンッ」と蹴り開けられた。 目の前の惨状を見た蒼介は数歩で駆け寄ると、私の手首を強く掴んだ。 「結衣!やめろ!」 知らぬ香水の香りが漂い、私は彼の手を振り払おうともがいた。 「離してよ!私が死ぬのを見たいんでしょ?今さら心配するフリなんてしないで!」 これまで抑え込んできた憎悪が一気に噴き出し、その偽善に満ちた顔を引き裂いてやりたいほど衝動に駆られる。 蒼介は私を腕の中に抱き込んで、震えながら私の頬にキスをした。 「馬鹿なことを言うな。結衣が死ぬのを黙って見ていられるわけがないだろう」 彼の瞳の奥には優しさが溢れ、顔中にはっきりと心配の色が浮かんでいた。 しかし、腫瘍はすでに網膜まで閉塞させたせいで、私は失明寸前なのだ。 彼の顔など、もうまともに見えなくなっていた。 「痛み止めを使いすぎると手術の耐性に影響するから、すでに助手に急いで海外製の薬を取り寄せさせているんだ。今夜には届くよ」 私が少し落ち着いたのを見ると、彼は私の頭を深く胸に抱き寄せた。かすれた甘い声で囁いた。 「いい子だから、もう自分を傷つけるのはやめなさい。 結衣に何かあったら俺はどうすればいい?もう少しの辛抱だ。 あの薬が来れば痛みは消えるから」 温かい息遣いが耳元をかすめ、私はわずかに残された聴力で彼の言葉を必死に聞き取ろうとする。 いつだって、この繰り返しだ。 私を極限まで傷つけておきながら、白々しく優しさをひけらかす。 私が次第に抵抗をやめたのを見て、蒼介は恐る恐る口を開いた。 「莉乃が急に頭痛を起こしてね。 結衣のところに予備の痛み止めが一つ残っているだろう? ひとまず彼女の応急処置に譲ってやってくれないか」 第2話 「譲れっていうの?」 私は蒼介を勢いよく突き飛ばした。頭の中で耳障りな音が鳴り響いている。 「蒼介!私の薬を奪うつもりなの?昔、どう誓ったか忘れたの?」 結婚式の日、彼は私の顔にキスをした時、神に真摯に誓ったのだ。 「これからの結衣の命は俺の命。誰にも傷つけさせはしない」と。 なのに、今はどうだ? 私は泣き叫びながら彼に掴みかかり、涙と血の混じった汚れが彼の白衣に擦り付けられる。 彼はよろめいて半歩退いたが、それでも頑なに言い訳を続けた。 「今回だけだ。莉乃が頭痛でずっと泣いているぞ。放っておけないんだ」 莉乃のことになると、蒼介の瞳の奥からは愛情が溢れ出さんばかりになる。 頭に上っていた血が、まるで水を浴びせられたかのように冷え切り、私の心は完全に死に絶えた。 私は自嘲気味に鼻で笑うが、涙は糸が切れたようにぽろぽろと零れ落ちていく。 「じゃあ、私はどうなるの?99回も延期した時、私のことを放っておけないとは思わなかったわけ?」 蒼介はうつむいたまま、押し黙っている。 その時、隣の病室から突然、莉乃の苦しげな声が聞こえてきた。 彼は弾かれたように顔を上げ、瞳の奥にあった最後の一抹の躊躇いすら瞬時に消え去る。 弁解の一言すら残さず、私を一瞥することもなく病室の外へと飛び出していった。 激しく脈打つこめかみを押さえ、私は全身の力が抜け落ちるのを感じる。額から流れた血が頬を伝い、口の中へと滴り落ちてきた。 やがて、隣の病室から話し声が微かに漏れ聞こえてくる。 「いい子だから、この薬を早く飲んでね。莉乃のためにわざわざ残しておいたんだ」 蒼介の声だ。甘く優しく聞こえている。 先ほど私に向けられた冷酷な態度とは、まるで別人のようだ。 続いて、莉乃の甘えるような声が響く。 「やだ、飲めないよ。苦いんだもん」 私が壁に頭を打ちつけてまで求めても、決して手に入らなかった薬なのに、彼は下手に出てまで他人に飲ませようと懇願しているのだ。 忽然と激しい吐き気が込み上げ、胃袋がひっくり返るように波打つ。 もう耐えきれず、ベッドの縁に突っ伏して激しくえずき始めた。 意識が遠のく中、ただ一つ、惨めな思いだけが頭をよぎる。 蒼介、あんたが莉乃に薬を飲むよう懇願する時、私がまだ、あんたが口から出任せに約束した薬を待っていることを、思い出してはくれないのだろうか。 だが、深夜から夜明けまで耐え忍んでも、彼が言っていた海外製の薬は一向に届く気配がない。 蒼介もまた、神隠しにでも遭ったかのように姿を消していた。 私は自嘲気味に笑い、指にはめられた結婚指輪を引き抜くと、思い切り窓の外へと投げ捨てた。 看護師が入ってきて、長いこと言い淀んだ後、ようやく声を潜めて口を開く。 「結衣さん、口座の残高が……すでに底をついておりまして。今後の診療費は、早急に追加でお支払いいただく必要があります」 「底をついた?」 私は呆然と、しばらく我に返ることができなかった。 あの金は、母の交通事故の賠償金だ。手術のために残しておいたものだった。 なぜ、こんなにも早く無くなってしまったのか。 看護師は唇を噛み締め、蚊の鳴くような細い声で答える。 「昨夜、桐生先生が白石さんをVIPルームに移されまして。 さらに海外から医療機器を空輸で手配して、その費用はすべてあなたの口座から引き落とされています」 ドンッと、頭の中で爆発音が鳴り響き、思考が真っ白になった。そして激しい頭痛が再び押し寄せる。 「VIPルームって?」 目の前が急に暗くなり、ベッドの縁にしがみついてようやく倒れるのを免れた。 「私の命綱の金で、莉乃に豪華な病室をあてがったっていうの?」 母は息を引き取る直前、私の手を強く握りしめて泣いていた。 「結衣ちゃん、お願いだから……このお金で、しっかり病気を治してね」 半身不随になりかけた体を引きずり、今すぐ蒼介の元へ問い詰めに行こうとする。 私が壁伝いに外へ出ようとするのを見た看護師は、血相を変えて駆け寄り、私の腕をきつく掴んだ。 「結衣さん!行っちゃダメです!桐生先生から、誰かが無理に入ろうとしたら……」 「どいて!」 私は彼女の手を激しく振り払う。 「あれは母さんが残してくれた大事なお金よ。なぜ見に行っちゃいけないの?」 彼女を避けて前へ進もうとした瞬間、急に足の力が抜け、身体が制御不能になって前へのめり込む。 額をドアに強く打ちつけ、私は莉乃専用のVIPルームの前に膝をついて崩れ落ちた。 病室のドアは少し開いていたが、室内に人の気配はない。 特注のプラネタリウムの天井が細かな光の粒を瞬かせ、ありとあらゆる医療機器が部屋を埋め尽くしている。 ここにある贅を尽くしたすべてが、私の母の遺産で得たものなのだ。 一方で、私の古びた病室の備品は、ボロボロか壊れているものばかりだ。 ベッドに至っては脚が一本欠けており、そのせいで転落して傷口が化膿し、あやうく手術台で死にかけたことすらあった。 蒼介には何度も言ったが、彼はいつもすぐにそのことを忘れてしまうのだ。 看護師が小走りで駆けつけ、手を伸ばして私を抱き起こそうとする。 私は空っぽの病室を見渡し、掠れた声で尋ねた。 「彼たちは?蒼介と……莉乃はどこなの?」 看護師は唇を引き結び、半ばためらいながら小声で切り出す。 「桐生先生は今、白石さんの手術を行っていますよ。 白石さんは風邪気味で頭が痛いだけなのですが、桐生先生が『一刻の猶予もできない』と無理やりして、徹夜で全国から医者を召集されたんです」 第3話 壁に寄りかかり、重い足取りで一歩ずつ手術室の前まで辿り着いた。 ドアの前に集まっていた名医たちが怪訝な視線を向けてくるが、私は何も見えないかのように彼らを掻き分ける。 「蒼介!出てきなさいよ!」 残された力を振り絞り、冷たい扉を必死に叩き続けた。 だが、心の中には途方もない考えが浮かんでくる。 「かつて99回も私の手術を延期した時のように、蒼介も私のために莉乃の手術を中断してくれるのではないか」と。 しかし次の瞬間、その答えを思い知らされることとなってしまう。 扉がバンッと蹴り開けられ、血走った目をした蒼介が飛び出してきて、扉を叩いていた私の手首を乱暴に掴んだのだ。 「いい加減にしろ!莉乃は手術を終えて眠ったばかりだぞ。お前が起こす気か」 「起こすって?」 思わず嘲笑うと同時に、涙がどっと溢れ出した。 そうか。好き勝手に中断されていいのは、私の手術だけだったのか。 莉乃の安眠のほうが、私の命よりもずっと重いというわけなのか。 けれど、もうどうでもいい。 「蒼介!母さんのお金を返しなさいよ。 私の手術代をあの女の機嫌取りに使うんじゃない! あれは、母さんが命と引き換えに残してくれたものなんだ」 それを聞いた途端、蒼介は瞬時にボウとして、視線を泳がせて私を直視できなくなった。 だが彼が口を開くより早く、手術室から莉乃の甘ったるい不満の声が伝わってくる。 「蒼介……うるさいよ。また頭が痛くなってきたの……」 蒼介は血相を変え、私の手首を掴む力を急激に強めた。骨が砕けそうなほど痛い。 彼は振り向き、部屋の中に向かって優しくなだめすかした。 「いい子だ。すぐ静かになるから、もう少し寝ててね」 そして再びこちらに顔を向けた時、その瞳には冷酷な色だけが浮かんでいた。 ドアの前に立つ警備員に向けて鋭く怒鳴りつける。 「こいつをつまみ出せ!二度とここに近づけないよう、病室に放り込んで鍵をかけろ」 警備員の手が私の腕を掴んだ瞬間、頭から破裂するような激痛が走った。 これまでのどんな痛みよりも激しく、キリで脳血管を容赦なく抉られているかのようだ。 目の前がさっと真っ暗になった。 眼球が腫瘍に押し出されそうな感覚と共に、血が溢れ出し、体は制御を失ってその場で倒れた。 周囲の医者たちが慌てて囲んだ。 ずっと身に着けていた生体情報モニターが狂ったように警告音を鳴らす。 「桐生先生!頭蓋内出血です!血圧が急低下していますから、今すぐ手術を」 それでも彼は、一切の躊躇なく怒鳴り散らした。 「黙れ!莉乃は手術を終えたばかりなんだぞ。見守る者がいなかったら、お前たちに責任が取れるのか」 そして、誰もがその場に立ち尽くした。床に倒れて激しく痙攣する私をただ見つめることしかできなくなった。 それは警備員でさえ顔を背け、私が伸ばした手に気づかないフリをしている。 「田中、お前が酸素吸入器をつけてやれ。他の者は全員このまま待機だ」 蒼介は数秒沈黙した後、傍らにいた一人を指差して言った。 そう言うと、彼はしゃがみ込んで私の頭を撫で、白々しく言い含めた。 「結衣、怖がらないで。彼女も名医だから、絶対に大丈夫さ」 しかし、田中が慌てて酸素吸入器をいじり回し、電源を入れることすら忘れているのを見た時、私は悟った。またしても彼に騙されたのだと。 体がどんどん冷たくなり、意識が徐々に遠く行ってしまう。 最後に耳に届いたのは、田中のパニックに陥った泣き声だった。 「誰か結衣さんを助けてくださいよ!私、清掃員のだけなのに、救命処置なんて全然わからないですよ!」 第4話 どれくらいが経ったのだろうか。ようやく目を覚ますと、全身、特に下半身のあたりが引き裂かれるように痛む。 瞼をどうにか押し開けると、ベッドの傍らにいた蒼介が緊張した面持ちで私を抱きしめた。 「結衣、すまなかった。救命処置が遅れたせいで、一生治らないてんかんを抱えさせてしまった」 呆然と顔を上げて彼を見つめるが、彼は笑いながらこう言ったのだ。 「だから……その償いとして、俺たち二人だけの子供を作ろう」 子供を作る?私が彼と、子供を作るなどあり得るだろうか。 「お前の胚性幹細胞とは適合率が極めて高くてね。莉乃の体を治療するのにぴったりなんだ」 頭の中が真っ白になり、全身の血が凍りつくほど寒い。 あろうことか、蒼介は私の子供を莉乃のための治療の材料にしようとするのだ! 私は持てる限りの力を絞って、今すぐ彼を八つ裂きにしてやりたい。 だが蒼介は身を乗り出し、暴れる私の手首を押さえつけて警告した。 「暴れるな。さっき眠っている間に受精卵を移植したんだ。今はもう、無事に着床して安定しているよ」 弾かれたように自分の平らな下腹部を見下ろす。 そこには今、一つの命が宿っている。まだ生まれてもいないのに、すでに材料として扱われている命が。 恐怖が心臓を掴んで癲癇の発作が起きたせいで、体が制御不能で激しく痙攣する。 妊娠すれば癌細胞の増殖が加速することなど、蒼介は百も承知のはずだ。 ただでさえ今週を乗り切れない体なのに、この子を宿したままでは、今夜を生き抜くことすらできないかもしれない! 「妊娠したら、私が死ぬってわかってるくせに……」 痙攣しながらどうにかその言葉を絞り出すが、口からは抑えきれなくて白い泡が吹き出してくる。 彼は私の手を離すと、ポケットから小さな箱を取り出し、テーブルに乱暴に叩きつけた。 「結衣、母さんの遺骨だが、交通事故の後に納骨せず、ずっと手元に置いてあるよな?」 彼は箱を開けて一掴みの遺骨をゴミ箱の中に放り込んだ。 「もしこの子を堕ろそうとしたら、残りはすべて下水に流してやるぞ」 全身がビクッと強張り、てんかんの痙攣がピタリと止まる。 私は泣き叫びながら彼の服の裾を強く握りしめた。 「蒼介、頼むから、母さんには手を出さないで!」 母の葬式の時、蒼介は跪いて私のことはしっかり守ると母に誓っていたのに。 それが今、母の死後の安らぎさえ奪おうとしている。 蒼介もその光景を思い出したのか、瞳の奥にわずかな躊躇いの色が見える。 ちょうどその時、病室のドアが開いた。少し膨らんだお腹を抱え、腰に手を当てた莉乃が入ってくる。 「あら、結衣さん、目が覚めたの?」 彼女はベッドに近づくと、わざと見せつけるようにそのお腹を私の目の前に突き出した。 「そういえば、感謝しなくちゃね。私の赤ちゃんが無事に生まれたら、あなたのことを感謝しなきゃ」 それを聞いて、私は必死に拘束を振り解き、全身の力を込めて彼女をビンタしようと腕を振り上げた。 だが、その腕は空中で蒼介にきつく掴み止められた。 次の瞬間、彼はもう片方の手で私の首を強く締め上げ、ベッドへ乱暴に押し倒した。 「結衣、お前はどこまで性悪なんだ! 莉乃が親切に見舞いに来てくれたというのに、手を上げようとするとは。 危ないところだった。まだお前のために手術をしてなくて正解なんだな。 お前みたいな女、助ける価値など微塵もない」 ええ、私も後悔しているわ。 あの日、トラックが突っ込んできた時、どうして彼を庇って飛び出してしまったのだろう。 そのせいで脳に深刻なダメージを負い、脳腫瘍を患うことになってしまった。 明日は約束の日。そして私に残された最後の生きる道だ。 夜更けに、私はこっそりと中絶薬を飲み、病院から抜け出した。 だが、隣のVIPルームの前を通りかかった時、蒼介がひれ伏すようにして、莉乃のお腹に祈りを込めてキスをしている姿が、ふと見えてしまったのだ。 しかし、それが私と何の関係があるというのだろう? 絶え間なく血が流れる自分の下半身を見つめ、私は自分を嘲笑った。 翌日、蒼介は胎児の様子を確認するため朝早くからやって来た。 ドアを開けるが、そこには空っぽとなった病室があるだけだ。 「どこに行った?」 怪訝に振り返ると、入り口で顔面を蒼白にしている看護師を睨みつける。 看護師は彼の剣幕に腰を抜かしていた。 「き、桐生先生、午前三時過ぎに、結衣さんが胸が苦しいから外の空気を吸いたいと……お止めしたのですが、結衣さんは……」 「空気を吸う……だと?」 蒼介は眉間に深い皺を寄せた。すぐさま捜索を命じようとしたその時、ドアが軽く開かれる。 欠伸をしながら入ってきた莉乃は、何気なくゴミ箱に目をやり、途端に悲鳴を上げた。 「蒼介、あれを見て!」 蒼介が莉乃の視線の先を追うと、その顔色は一瞬にして変わった。 そこには、目に刺さるような中絶薬の空き箱が転がっていたのだ。

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