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親友を慰めた私を、親友と恋人が同時に裏切った
私の名前は夏川清花(なつかわ きよか)。 親友の高坂夕愛(こうさか ゆあ)は、それまでに19人の男と付き合っていたが、なぜか相手は毎回ろくでもない男ばかりだった。 そのせいで心に深い傷を負い、一度は自ら命を絶とうとしたことさえあった。 相手を見極めるため、私は夕愛のお見合いにも付き添った。 そのため、恋人の伊藤京也(いとう きょうや)との旅行までキャンセルした。 それを知った京也は、眉をひそめた。 「お前、夕愛に構いすぎだろ。家にまで連れてきて、見合いにまで付き合って……そこまで面倒見る必要あるか? あいつ、すぐ人にべったりするし、プライベートなことまで何でも話すだろ。あんな調子じゃ、誰だって付き合いきれないだろ」 私は珍しく、京也に腹を立てた。 「夕愛は私の幼馴染みなの。それに、私たちの結婚式でブライズメイドをするのも前から楽しみにしてるんだし。旅行ならまた今度行けばいいでしょ。 夕愛は今もまだ病気なのよ。私がそばについていてあげなきゃ」 そんなある日、妊婦健診を終えて病院から帰った私は、京也を驚かせようとドアを開けた。 すると、裸のまま同じベッドに横たわる2人の姿が目に飛び込んできた。
チャプター (1)
第1話
私の名前は夏川清花(なつかわ きよか)。
親友の高坂夕愛(こうさか ゆあ)は、それまでに19人の男と付き合っていたが、なぜか相手は毎回ろくでもない男ばかりだった。
そのせいで心に深い傷を負い、一度は自ら命を絶とうとしたことさえあった。
相手を見極めるため、私は夕愛のお見合いにも付き添った。
そのため、恋人の伊藤京也(いとう きょうや)との旅行までキャンセルした。
それを知った京也は、眉をひそめた。
「お前、夕愛に構いすぎだろ。家にまで連れてきて、見合いにまで付き合って……そこまで面倒見る必要あるか?
あいつ、すぐ人にべったりするし、プライベートなことまで何でも話すだろ。あんな調子じゃ、誰だって付き合いきれないだろ」
私は珍しく、京也に腹を立てた。
「夕愛は私の幼馴染みなの。それに、私たちの結婚式でブライズメイドをするのも前から楽しみにしてるんだし。旅行ならまた今度行けばいいでしょ。
夕愛は今もまだ病気なのよ。私がそばについていてあげなきゃ」
そんなある日、妊婦健診を終えて病院から帰った私は、京也を驚かせようとドアを開けた。
すると、裸のまま同じベッドに横たわる2人の姿が目に飛び込んできた。
第1話
京也は隠す気などまるでなく、煙草を吸いながら淡々と言った。
「夕愛の面倒まで俺に見させたのは、お前だろ。
あれだけ夕愛のこと気にかけてたんだから、俺が手を出したくらいじゃ気にしないと思ってたけどな」
私はただその場に立ち尽くし、何も言えなかった。
夕愛がおずおずと口を開いた。
「清花、今までずっと、私の彼氏探しを手伝ってくれてたよね?
だったら、京也のことも私に譲ってくれない?」
誰よりも信じていた2人に、まさかそろって裏切られるなんて思ってもいなかった。
京也を驚かせようと大事に持ち帰った健診結果の紙が、いつの間にか手の中でくしゃくしゃになっていた。
床には脱ぎ捨てられた下着が散らばり、ベッドの上では2人が裸のまま寄り添っていた。
2人の頬には、まだ火照りが残っていた。
しばらく、部屋は重い沈黙に包まれた。
私は力なく目を閉じた。
長年付き合ってきた恋人と、子どもの頃から何でも話してきた親友が、よりによって私の家でこんなことをしていた。
そう思うだけで吐き気がこみ上げ、胸の奥がすっと冷えていった。
目の奥が熱くなり、私は涙をこらえるように唇を強く噛みしめた。
それでもなんとか声を絞り出した。
「……いつからなの?」
京也は夕愛にそっと布団をかけると、こちらを振り向き、平然と言った。
「俺から誘ったんだ。夕愛は悪くない。こういうことには疎いんだから、責めるなら俺を責めろ」
そこまで言い切ると、京也はすっかり開き直ったように平然としていた。
夕愛は恥ずかしそうに京也の胸を軽く叩いた。
「もう、京也。そんなことまで言わなくていいでしょ!」
そんなやり取りをあまりにも自然に交わす2人を見て、全身が震え、鼻の奥がつんと痛んだ。
3か月前までは、夕愛はべたべたしてくるし子どもっぽいと、あれほど嫌そうに愚痴をこぼしていたのに。
それがたった3か月で、何年も連れ添った夫婦のように寄り添っていた。
京也は夕愛の頭を優しく撫で、甘やかすような口調で言った。
「何を今さら照れてるんだよ。もう初めてでもないだろ。
3週間くらい前だったかな。お前が出張でいなかった時、俺たち、つい我慢できなくなってさ。
そのまま、流れで一線越えたんだよ」
まるで世間話でもしているような軽い口調だった。
「夕愛って、確かにべたべたしてくるけど、実際抱いてみたら、ああいうところも可愛くてさ。
こういうことにも全然慣れてないし、何から何まで俺が教えてやらないと駄目なんだ」
とうとうこらえきれず、涙が頬を伝った。
それでも私は無理に笑ってみせたが、胸の奥がじわじわと痛んだ。
京也の言葉を聞いていた夕愛は、ようやく覚悟を決めたように顔を上げた。
その目には、私が譲るのが当然だとでも言いたげな、頑なな色が浮かんでいた。
「清花、私ね、本当に京也が好きなの。
前に言ってたよね?私が欲しいものなら、何でも譲ってくれるって」
子どもの頃から見慣れた夕愛の顔を、私は黙って見つめた。
こんな身勝手で残酷な言葉が、夕愛の口から出てくるなんて信じたくなかった。
傷ひとつ負っていないはずなのに、胸の奥が痛くてたまらなかった。
「だからって、私に黙って京也と付き合ってたの!?」
思わず声を荒らげると、夕愛の顔がさっと青ざめた。
京也はすぐに夕愛の前へ出て、私との間に立った。
そして、苛立った目で私を見た。
「大声出すなよ。夕愛が体弱いのは知ってるだろ。これ以上責めるな」
私の恋人のはずなのに、京也の目にはもう夕愛しか映っていなかった。
しかも、迷うことなく私ではなく夕愛の側に立っていた。
胸の奥がぽっかり空いたようで、どうしようもなく虚しかった。
涙で視界が滲む中、私は無理やり笑ってみせた。
「もういい!
2人で勝手に幸せになれば!」
第2話
そう言い捨てると、私は2人に背を向け、そのまま家を飛び出した。
涙で前もろくに見えないのに、過去のことだけは嫌になるほど鮮明に脳裏に浮かんだ。
3か月前まで、京也は夕愛のことを露骨に嫌がっていて、よく私に愚痴をこぼしていた。
「夕愛って、ほんと食べて寝てばっかりだよな。料理ひとつまともにできないし。
ああいう女と結婚したら、すぐ嫌になって離婚するだろ」
そんなふうに言っていたから、私は2人のことを一度も疑わなかった。
出張で家を空ける時も、何の疑いもなく夕愛を泊め、留守の間は京也のことまで任せていた。
今思えば、私が何も疑わなかったことが、かえって2人には都合がよかったのだろう。
私が家を空ける夜ごとに、親友と恋人は私のベッドで何度も体を重ねていた。
けれど、まったく気づいていなかったわけでもない。
前に一度、何気なく枕の下へ手を伸ばした時、見覚えのあるショーツが出てきたことがあった。
夕愛がよく穿いていた、キャラクター柄のものだった。
さすがにおかしいと思って問いただすと、京也は面倒くさそうに答えた。
「洗濯物片づける時に、お前が間違えて混ぜたんだろ。そんなことでいちいち疑うなよ。
あんな働きもしないで人に甘えてばっかの女、俺が相手にするわけないだろ。そもそも女として見てないし」
そのとき、聞き慣れた京也の声がした。
次の瞬間、手首を強く引かれ、そのまま京也の胸元へ引き寄せられた。
はっと顔を上げると、すぐそばをトラックが勢いよく走り抜けていった。
そこでようやく、周りも見ずに走り、そのまま交差点へ飛び出していたことに気づいた。
「危ないだろ。ちゃんと前見ろよ。
轢かれでもしたらどうするんだよ。心配させんな」
そう言って私を見つめる京也の目は、いつもと変わらず優しかった。
ついさっき夕愛とのことを知ったばかりなのに、まるで何もなかったみたいだった。
告白された時も、京也はこんなふうにまっすぐ私を見ていた。
付き合ってからも毎晩欠かさず連絡をくれ、帰りが遅くなる時はきちんと知らせてくれた。朝まで帰ってこなかったことも一度もなかった。
スマホの暗証番号も、メッセージのやり取りも、私に隠そうとしたことはなかった。
周りの友人からも、京也みたいな彼氏がいて羨ましいと何度も言われた。
私もずっと、京也に限って浮気なんてするはずがないと信じていた。
それなのに、その信頼はついさっき、目の前であっけなく崩れ去った。
私は京也を力いっぱい突き放し、震える声で言った。
「ここまでしておいて、まだ私を大事にしてるつもり?
夕愛のところに戻れば?ベッドで好きなだけ慰めてあげればいいじゃない」
京也は露骨に顔をしかめた。
「俺は別れるなんて一言も言ってないだろ。なんでそこまで大げさにするんだよ。
そもそも、夕愛のことを俺に任せたのはお前だろ。あの時、お前が俺に夕愛のことを頼んでこなきゃ、こんなことにはなってない。
それに、夕愛だってお前のこと気にしてる。帰ってきてほしいって言ってたぞ」
あまりにも勝手な言い分に、思わず笑いがこぼれた。
「だからって、浮気していいことにはならないでしょ?
私のこと、何だと思ってるの?どうしてそこまで平気で傷つけられるの!」
私は京也の手を振りほどき、そのまま背を向けた。
ところが、歩き出してすぐ、下腹部に鋭い痛みが走った。
そのまま視界が暗くなり、私は膝から崩れ落ちた。
目を覚ますと、最初に目に入ったのは病室の白い天井だった。
ベッドのそばには夕愛がいて、甲斐甲斐しく世話を焼きながら、持ってきたお粥を器によそっていた。
「清花、やっと目が覚めたんだね。
京也もひどいよね。清花が体弱いって分かってるのに、あんな言い方するなんて」
私を気遣っているような口ぶりなのに、京也の名前を呼ぶ声だけは妙に親しげで、それが胸に引っかかった。
夕愛は何事もなかったような無邪気な顔で、スプーンですくったお粥を私の口元へ差し出した。
「ほら、少しでも食べて。何も食べないと体がもたないよ」
私は顔をそむけ、差し出されたスプーンには口をつけなかった。
ただ、目の前にいる夕愛をじっと見つめた。
心から大切にしてきた親友が、私に隠れて3週間も京也と寝ていた。
それなのに私の前では、何食わぬ顔をしていつも通りに振る舞っていたのだ。
私の冷たい視線に気づいたのか、夕愛はゆっくりと茶碗を置いた。
「清花、ごめん。私が悪いって分かってる。まだ怒ってるよね。
でも、私、本当に京也が好きなの。京也も、もう清花には気持ちがないって言ってた。
今まで清花にしてもらった分は、これからちゃんと返していくから」
弱々しそうな表情とは裏腹に、その目には少しも迷いがなかった。
京也を手放す気など、最初からないのだろう。
私は思わず言葉を失った。
思えば、子どもの頃から、夕愛が相手だといつも私のほうが折れてきた。
わがままを言われても聞き入れ、何かあれば自分のほうが引いた。
幼い頃、溺れた私を助けてくれたあと、夕愛は体が冷えやすくなり、たびたび体調を崩すようになった。
そのことがずっと心に引っかかっていた私は、夕愛に約束したのだ。
私にあるものなら、欲しいものは何でもあげる、と。
ろくでもない男に19回も振られ、夕愛が飛び降りようとした時も、私は必死で引き止め、立ち直れるまでそばで支えた。
彼女を傷つけた男たちのことで何度も動き回り、夕愛が働かなくても何不自由なく暮らせるよう、私は必死に働いてきた。
それなのに、私が仕事の付き合いで酒を飲み、休む間もなく働き回っていた間、夕愛は私の家で京也と何度も寝ていた。
挙げ句の果てには、京也も、私が大切にしてきたものも、欲しいと言えば譲ってもらえるとでも思っているようだった。
そこまで考えた瞬間、ずっと押し込めていた怒りが一気に込み上げた。
私は勢いよく手を伸ばし、枕元のテーブルに置かれていたお粥の入った茶碗を払い落とした。
「いつまでいい子ぶってるの?もう出てって!」
第3話
次の瞬間、頬に鋭い痛みが走った。
耳の奥でキーンと音が鳴り、口の端には血の味が広がった。
そこでようやく、京也に頬を打たれたのだと分かった。
私は呆然と京也を見つめた。
京也は、こぼれたお粥で赤くなった夕愛の手をそっと取り、火傷の具合を確かめていた。
けれど、私を見た途端、その目からさっきまでの優しさが消えた。
「清花、お前、夕愛がこれ作るのにどれだけ頑張ったか分かってるのか?
普段料理なんてしないのに、お前のために指まで切ったんだぞ。
お前、いつからそんな嫌な女になったんだよ」
涙が次々とこぼれた。それなのに、なぜか笑いまで漏れた。
どれだけ大変かは、嫌というほど知っていた。
毎日の3食も家事も、ずっと私がやってきたからだ。
それでも京也は、そんな私を気遣ったことなんて一度もなかった。
それなのに、夕愛がたった一度お粥を作っただけで、京也は私に手を上げた。
私は震える指を2人に突きつけた。
「そりゃ大変だったでしょうね。人の彼氏と寝ておいて、よく私の前でそんな顔していられるよね!」
京也が何か言い返そうと口を開いたが、夕愛がそれを遮るように怒鳴った。
さっきまでの弱々しい様子は、もうどこにもなかった。
「あの時あんたを助けてから、ずっと体調を崩しやすくなって、子どもまで産めなくなったの!
そのせいで、今まで何度男に捨てられたと思ってるの!
全部あんたのせいなんだから、これくらい認めてくれたっていいでしょ!どれだけ恨まれたって、私は京也と別れないから!」
夕愛が泣き崩れると、京也は痛ましそうに抱き寄せ、そのままかばうように肩を抱いて病室を出ていこうとした。
ドアを開ける前に、京也は私に向かって吐き捨てた。
「親友をここまで追い詰めるなんて……清花、お前、ほんと変わったよ。
こんなことになるくらいなら、最初からお前と出会わなきゃよかった」
2人が病室を出ていくと、私はベッドに崩れ落ち、そのまま布団を頭までかぶって、声を押し殺して泣いた。
左手の薬指には、京也にもらった指輪がまだはまっていた。
会社がようやく軌道に乗り始めた頃、京也が何年も貯めたお金で買ってくれた指輪だった。
あの頃は、小さな会社を大きくしようと、2人でがむしゃらに働いていた。
苦しいことばかりだったけれど、それでも2人で何とか乗り越えてきた。
あの頃の京也は、無理ばかりする私をいつも心配して、何かと気遣ってくれていた。
生理が来る時期も、私より京也のほうがよく覚えていた。
生理痛がひどい日は、どんなに大事な会議があっても予定を空け、そばにいてくれた。
夜通し、冷めるたびにタオルを温め直して、お腹に当ててくれたこともあった。
指輪の内側には、今も2人のイニシャルが刻まれていた。
ずっと一緒にいるという、2人の誓いの証だった。
それが今では、ひどく皮肉に思えた。
翌日、まだ体はつらかったが、私は無理をして退院の手続きを済ませた。
ロビーまで来たところで、夕愛と鉢合わせた。
私に気づいた夕愛は、そのままこちらへ歩いてきた。
「清花、昨日は言いすぎた。ごめんね。
でも、京也はもう清花のこと好きじゃないの。だから……もう京也のことは諦めてくれない?
別れてくれるなら、その代わり、欲しいものは何でもあげるから」
私は奥歯を噛みしめたまま、乾いた笑いを漏らした。
「何でもくれるって?人に養ってもらってるだけのあなたに、何ができるっていうの?」
すると夕愛は何も言わず、何枚かの書類を取り出して私に突きつけた。
「会社の株、清花が持ってた分は全部、京也が私の名義に変えてくれたの。
清花名義だった不動産も、今は全部私のもの。
清花、もう何も残ってないよ」
第4話
私はその場から動けなかった。
あの会社は、京也と2人でゼロから立ち上げたものだった。
昼も夜もなく働いて、ようやくここまで育ててきた。
それなのに夕愛のためなら、京也は私をこんなにもあっさり切り捨てられるんだ。
「あ、そうだ。私たち、明日結婚式なの。
京也がね、もう清花に変な期待を持たせたくないから、私とのことも早くちゃんとしたいって」
夕愛は、まるで何でもないことのように言った。
その言葉で、心のどこかに残っていた最後の期待まで消えた。
私は少し膨らみ始めたお腹にそっと手を当て、力なく笑った。
この5年、私は何度も京也に結婚式を挙げたいと言ってきた。
でも京也はそのたびに、今は仕事が大事だからと先延ばしにした。
いつか必ず、誰もが羨むような盛大な式を挙げようと、京也は何度も約束してくれた。
私はその言葉を信じて、ずっと待っていた。
けれど、1年、また1年と過ぎても、その約束が叶うことはなかった。
それなのに、夕愛が望んだだけで、京也はあっさり結婚を決めた。
私が5年待っても手に入らなかったものを、夕愛には簡単に与えた。
喉の奥が詰まり、こらえていた涙がまた頬を伝った。
私はかすれた声で、ようやく言った。
「……なんで私にそんな話するの?」
私の様子を見て、夕愛は一瞬だけ言葉に詰まった。
けれど、すぐに何事もなかったように口を開いた。
「来てほしいの。清花は、私にとってたった1人の親友だから。
それに、ブライズメイドも清花にお願いしたいの」
……
翌朝、空が白み始めたばかりの頃、京也の車が時間どおり清花のマンションの前に止まった。
清花を結婚式へ連れていくため、京也自身が迎えに来たのだ。
清花にはもう愛想を尽かしていたが、夕愛にとってはたった1人の親友だった。
それに、自分も長年付き合ってきた情があった。
ところが、いくら待っても清花は現れなかった。
部屋の窓にも明かりはつかず、降りてくる気配もなかった。
しばらく待った末、京也は清花に電話をかけた。
だが、電話に出たのは見知らぬ男だった。
その声を聞いた瞬間、京也の眉間にしわが寄った。
「誰だ、お前?清花は?まさか、俺に隠れて男でもできたのか?」
自分が先に裏切っておきながら、清花の電話に別の男が出た途端、京也の腹の底から怒りがこみ上げた。
少し間を置いて、電話の向こうから落ち着いた声が返ってきた。
「伊藤京也さんですか?夏川さんの手術を担当した医師です」
その言葉に、京也の顔色が変わった。
「手術……?
清花に何かあったんですか?何の手術ですか?」
医師は少し黙ってから、静かな声で告げた。
「夏川さんは先ほど、中絶手術を終えました。
帰る前に、伊藤さんへ伝えてほしいと頼まれまして。
遠くへ行くそうで、お2人の結婚式には出席しないそうです。
それから――『お2人とも、どうぞお幸せに』と」