三年間私を虐げた夫は、私に忘れられて壊れた

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三年間私を虐げた夫は、私に忘れられて壊れた

GoodNovel 完結

夫・藤原牧生(ふじわら まきお)は、車椅子に乗って3年間も足が不自由なふりをしていた。 豪華客船が火事になったあの夜、燃え落ちたうつばりが、私・佐山由実(さやま ゆみ)の足をへし折った。私は声が枯れるほど彼の名を叫び、助けを求めた。 けれど彼は車椅子に座ったまま、冷たく私を見下ろして言った。 「遠すぎる。行けない。自分で這ってこい」 その直後、彼の初恋の人が足を滑らせて海へ落ちた。 すると牧生は突然立ち上がり、何事もなかったように駆け出し、デッキの縁からためらいなく漆黒の海へ飛び込んだ。 そのせいで私は炎に焼かれて片足を失い、一酸化炭素中毒で脳まで損傷し、知能は6歳のまま止まってしまった。 それから3年後。 牧生は狂ったように私を探し続け、ようやく路上で物乞いをしている私を見つけた。 彼はその場に膝をつき、目を真っ赤にして言った。 「俺から逃げるために、こんな姿になるまで落ちぶれたのか。割に合うのか?」 私は首をかしげ、その見知らぬ男を見つめると、ポケットから飴を1つ取り出して差し出した。 「おじさん、足、ちゃんと動くのに、どうして私みたいに跪いてるの? ホームレスのまねっこするの?飴、もう1つしかないけど、あげるね」

チャプター (1)

第1章

夫・藤原牧生(ふじわら まきお)は、車椅子に乗って3年間も足が不自由なふりをしていた。 豪華客船が火事になったあの夜、燃え落ちたうつばりが、私・佐山由実(さやま ゆみ)の足をへし折った。私は声が枯れるほど彼の名を叫び、助けを求めた。 けれど彼は車椅子に座ったまま、冷たく私を見下ろして言った。 「遠すぎる。行けない。自分で這ってこい」 その直後、彼の初恋の人が足を滑らせて海へ落ちた。 すると牧生は突然立ち上がり、何事もなかったように駆け出し、デッキの縁からためらいなく漆黒の海へ飛び込んだ。 そのせいで私は炎に焼かれて片足を失い、一酸化炭素中毒で脳まで損傷し、知能は6歳のまま止まってしまった。 それから3年後。 牧生は狂ったように私を探し続け、ようやく路上で物乞いをしている私を見つけた。 彼はその場に膝をつき、目を真っ赤にして言った。 「俺から逃げるために、こんな姿になるまで落ちぶれたのか。割に合うのか?」 私は首をかしげ、その見知らぬ男を見つめると、ポケットから飴を1つ取り出して差し出した。 「おじさん、足、ちゃんと動くのに、どうして私みたいに跪いてるの? ホームレスのまねっこするの?飴、もう1つしかないけど、あげるね」 第1話 牧生は私の飴を受け取らなかった。 「由実、いつまでこんな芝居を続けるつもりだ?」 彼の声は大きかった。 私はびくっと首をすくめ、本能的に手にしていたぼろぼろの碗を胸元へ抱き寄せた。 碗の中には少しお金が入っている。今日の夕飯代だ。 取られちゃいけない。 私が何も言わないのを見て、牧生はますます苛立った。 彼はいきなり私の腕をつかんだ。 「痛い!おじさん、悪い人!由実を叩かないで!」 痛くて大声で泣き出したけれど、もう片方の手ではあの飴をぎゅっと握りしめていた。 これは今朝、陸野靖彦(りくの やすひこ)がご褒美にくれたものだ。 昨日、おもらししなかったから。 「おじさん」という言葉を聞いた途端、牧生の顔がさらに険しくなった。 「狂ったふりまでしやがって!」 彼は鼻で笑い、私が固く握りしめた拳へ視線を落とした。 きっと私が何か高価なものを隠していると思ったのだろう。 彼は無理やり私の指を1本ずつこじ開けた。 手のひらにあったのは、少し溶けてほこりまみれになったフルーツキャンディだった。 牧生は一瞬呆気に取られた。 そして次の瞬間、その目に強烈な嫌悪が浮かんだ。 「お前、こんなもののために?」 彼は飴をひったくると、地面に叩きつけた。 ピカピカに磨かれた革靴で踏みつけ、何度もぐりぐりと潰す。 「いや!」 私は悲鳴を上げた。 それは、私の飴なのに。 どこからそんな力が出たのか、自分でも分からなかった。 私は彼の手を振りほどくと、ドサッと地面に這いつくばった。 そして、タイルの隙間に入り込んだ飴の欠片を必死に指でかき集めた。 汚い。 でも、甘い。 泥と靴跡まみれになった飴の欠片を、私はそのまま口に詰め込んだ。 涙も鼻水も顔中にべったりとついていた。 「甘い……甘いよ……」 周りの人たちはみんな私を見ていた。 中にはスマホを取り出して撮影している人までいる。 まるで私の姿に腹を立てたかのように、牧生は突然私の襟首をつかんだ。 子猫でもつまみ上げるように、私の体を軽々と持ち上げる。 「由実!お前、気持ち悪くないのか!」 私は彼を無視した。ただ泣きながら、地面に残った飴の跡を見つめた。 「弁償して……おじさん、由実の飴、弁償して……」 牧生は歯を食いしばると、そのまま私を肩に担ぎ上げ、道端に停まっていた黒い高級車へ乱暴に押し込んだ。 私は窓を叩きながら、道端にぽつんと残されたぼろぼろの碗を見つめた。 「お金!由実のお金! お金がないと、お兄ちゃんのご飯買えないよ!」 牧生は車のドアをロックし、運転手に車を出すよう命じた。 そして振り返ると、憎しみに満ちた目で私を睨みつけた。 「あの野郎なんか、飢え死にすればいい。 由実、そこまで芝居が好きなら、お前が一番逃げたかった場所へ連れて帰ってやる。そこで好きなだけ演じろ」 …… 車はとても大きな屋敷へ入っていった。 ここには、なんだか見覚えがある。 でも、私は怖くて目を逸らした。 ここの壁は真っ白で、病院みたい。 ここの照明はあまりにも明るくて、あの火事の炎みたい。 使用人たちは玄関に並んでいたが、私の全身泥だらけの姿を見ると、みんな鼻を覆った。 牧生は私をリビングの絨毯の上へ放り投げた。 「こいつを綺麗に洗え。俺のカーペットを汚すな」 数人の使用人が近づいてきて、乱暴に私を浴室へ引きずっていった。 蛇口がひねられる。 ザーッと熱い湯が勢いよく噴き出し、白い湯気が立ち上った。 「いやぁ!」 私は悲鳴を上げ、隅へ逃げ込んだ。 「火……火だよ!由実を焼かないで!」 熱い湯が体にかかる。まるで、あの夜の豪華客船で私を包んだ炎のようだ。 私は頭を抱え、全身を震わせた。 歯がガチガチと鳴る。 使用人たちは苛立ったように私を押さえつけた。 「奥様、もうやめてください。これは水ですよ」 私は必死にもがいた。 爪が1人の使用人の腕を引っかき、皮膚を傷つけた。 パシン! 使用人が振り返りざま、私の頬を平手打ちした。 「この狂女!」 牧生が浴室へ駆け込んできた時、私は浴槽の隅で体を丸めていた。 まるで、ずぶ濡れになった捨て犬のように。 第2話 私の服はすべて剥ぎ取られた。 背中一面に広がる、木の根が絡み合ったような醜い火傷の痕が、むき出しになっている。 牧生の瞳孔が、ほんの一瞬大きく縮んだ。 彼はその傷跡に手を伸ばしかけたが、途中で止めた。 「芝居のためなら、随分と身体を張ったもんだな」 歯を食いしばりながら吐き出した声は、皮肉なのか、それとも別の感情なのか、私には分からなかった。 「牧生さん?」 その時、入口から甘ったるい声が聞こえた。 丹原千代(たんばら ちよ)が白いバレエの衣装を着て入ってきた。 とても綺麗だ。 まるで白鳥みたい。 それに比べて私は、ドブの中のネズミ。 千代は私の背中の傷を見ると、目に嫌悪を浮かべた。 けれど、すぐに心配そうな表情に変えた。 「由実さん、どうしてこんな姿になっちゃったの?牧生さんは由実さんのためを思ってやってるのに、どうして使用人を引っ掻いたりしたの?」 私は彼女から漂ってくる香水の匂いを嗅いだ。 くしゅん! 私はくしゃみをして、彼女を指差した。 「おばさん、くさい」 千代の顔が一瞬こわばった。笑顔を保つのもやっとだった。 牧生はすぐに千代を背後に庇い、冷たい目で私を見た。 「由実、千代に謝れ!」 分からない。 臭いのはあの人なのに、どうして私が謝るの? 私は頑固に唇を結び、何も言わなかった。 牧生はとうとう我慢の限界に達した。 彼は振り返って棚から赤い箱を取り出した。 蓋を開ける。 中には、赤いバレエシューズが入っていた。 3年前、私が一番大切にしていたものだ。 けれど今、それを見ただけで足が痛くなった。 折れた脚の骨が、ずきずきとうずく。 「お前、踊るのが一番好きだっただろ?」 牧生はバレエシューズを私の目の前へ放り投げた。 「履け。俺に踊って見せろ」 「踊らない……」 私は必死に首を横に振り、体を後ろへ縮めた。 「足が痛い……火……由実を焼かないで……」 彼は私がこんなやり方で反抗していると思ったらしい。 「踊らない?」 牧生は冷笑した。 バレエシューズを拾い上げ、大股で暖炉へ向かう。 暖炉の中では炎が燃えていた。 「だったら、二度と踊れないようにしてやる!」 そして手を離した。バレエシューズが炎の中へ落ちた。 赤いサテンの布地が、一瞬にして炎に飲み込まれていく。 「やめて!」 燃え上がる炎を見た瞬間、頭の中で張り詰めていた糸が切れた。 大火事。 豪華客船。 折れた脚。 恐怖のあまり、その場で失禁してしまった。 黄色い液体が太ももを伝って流れ落ち、鼻を突く臭いが辺りに広がる。 「きゃっ!」 千代が悲鳴を上げ、鼻を覆いながら牧生の胸へ逃げ込んだ。 牧生は床に広がった水溜まりを見つめ、顔を青ざめさせた。 その時、ようやく気づいた。 かつてお姫様のように誇り高かった由実は――本当に、壊れてしまったのだと。 …… 牧生は私を部屋に閉じ込め、外へ出ることを禁じた。 でも、お腹が空いていた。 お腹がぐうぐう鳴る。 お兄ちゃんが買ってくれた肉まんが恋しかった。 夜になると、屋敷の中はとても賑やかになった。 牧生は料理人に、テーブルいっぱいの料理を作らせた。 使用人が私を1階へ連れていき、無理やり食卓の前に座らせた。 テーブルには美味しそうな料理がずらりと並んでいる。 でも、私は怖くて手をつけられなかった。 牧生は椅子に座り、その隣には千代がいる。 まるで、この家の女主人みたいだ。 「食べろ」 牧生が冷たく私を見た。 「腹が減ってるんだろ?」 私は目の前にあるステーキを見つめた。 生焼けで、血が滲んでいる。 私は血が怖い。 だから首を横に振り、千代の前に置かれた小さなケーキへ視線を向けた。 イチゴ味だ。 きっと甘い。 千代は私の視線に気づいた。 彼女は微笑むと、そのケーキを私の前へ押し出した。 「由実さん、食べたいなら食べて。遠慮しないで」 私はごくりと唾を飲み込み、おそるおそる手を伸ばした。 指先が皿に触れた、その瞬間、太ももの内側に激痛が走った。 テーブルクロスの下で、千代が私を思いきりつねっていた。 容赦のない力だった。 「痛い!」 痛みに手が震えた。 皿がひっくり返り、ケーキがそのまま千代の白いドレスの上に落ちた。 クリームが彼女の全身にべったりとつく。 「きゃあ!私のドレス!」 千代は悲鳴を上げた。 そして、まるで今にも泣き出しそうな顔をして言った。 「由実さん、食べたくないならそう言えばいいじゃない!どうして私にぶつけるの? これ、牧生さんがプレゼントしてくれた限定品なのに!」 牧生が勢いよくテーブルを叩いて立ち上がった。 「由実!」 彼は怒りに満ちた目で私を睨みつけた。 「お前、そんなに嫉妬深いのか?たかが1着の服すら我慢できないのか!」 私は怖くなって、テーブルの下へ潜り込んだ。 頭を抱え、ぶるぶると震える。 「由実じゃない……おばさんがつねったの……痛いよ……」 けれど、牧生はまったく信じてくれなかった。 「出てこい!」 彼は怒鳴った。 「床に落ちたケーキを拾って食え!」 私は出たくなかった。でも、殴られるのが怖かった。 私は這い出ると、床にひざまずいた。 そして、埃まみれになったクリームへ手を伸ばした。 第3話 千代は傍らで、何食わぬ顔をしてドレスについたクリームを拭っていた。 そのハイヒールが、床に落ちていたグラスをさりげなく踏み潰した。 ガラスの破片が、クリームの中へ紛れ込んだ。 私には何が起きているのか分からない。 ただ、言うことを聞けばご飯が食べられる。 それだけは分かっている。 私はケーキをひと掴みすると、鋭いガラス片が一瞬にして手のひらに突き刺さった。 血がどくどくと流れ出す。 「うわぁ!」と、私は痛くて大泣きしながら、血の流れる手を牧生に見せた。 「おじさん、痛い……血が出た……」 鮮血がカーペットにぽたぽたと落ち、目を覆いたくなるほど生々しい。 牧生はその血を見つめた。胸が、ドクンと大きく震えた。 無意識に立ち上がろうとした時、千代が突然胸元を押さえ、彼の腕の中へ倒れ込んだ。 「牧生さん、胸が苦しい……もしかして、あの子に腹を立てたせいかしら……」 牧生の動きが止まった。 彼は千代を見て、それから手を血まみれにした私を見た。 最後には顔を背け、心を鬼にした。 「連れていけ。手当てはするな。飯も食わせるな。 少しは思い知らせてやれ」 …… 地下室は真っ暗だ。 窓はなく、聞こえるのはネズミのチューチューという鳴き声だけだ。 私は壁際で体を縮め、傷ついた手を舐めていた。 血はもう乾いていて、べたべたしている。 お腹が空いた。 お兄ちゃんに会いたい。 その時、突然、外から大きな音が響いた。 ドン! 扉が何度も蹴り飛ばされ、ガンガンと音を立てる。 続いて、ボディーガードたちの怒鳴り声と、激しい揉み合いの音が聞こえてきた。 「どけ!俺を中に入れろ!」 その声……靖彦お兄ちゃん! 私は勢いよく顔を上げ、目に光が戻る。 「お兄ちゃん!」 私はよろめきながら、扉へ駆け寄った。 次の瞬間、扉が勢いよく蹴破られた。 血のついた鉄パイプを手に、靖彦が飛び込んできた。 全身傷だらけで、服もボロボロだ。それでも、その目だけは恐ろしいほどに鋭く輝いている。 「由実ちゃん!」 私の血まみれの手を見た瞬間、彼の目が真っ赤になった。 「この畜生ども!」 靖彦は鉄パイプを放り捨て、私を抱きしめた。 「怖かったな。兄ちゃんが連れて帰ってやる」 その腕は温かい。少し酸っぱい肉まんの匂いがする。でも、それこそが世界で一番安心できる匂いだ。 けれど、私たちは出られなかった。 牧生がさらに大勢のボディーガードを連れて、入口を塞いでいた。 彼は寝間着姿のまま、私たちを見下ろしていた。 「こいつがお前の男か?」 牧生の視線が、靖彦が私を抱いている腕へ落ちる。その目には、むき出しの殺意が宿っている。 「ゴミ拾いの乞食か?」 靖彦はさりげなく私を背後に庇った。 「牧生、お前は人間か?この子の知能は6歳しかないんだぞ!そんな子を虐待するなんて!」 牧生は冷笑した。 「知能が6歳の馬鹿だと?確かに、誰よりも上手く演じてるな」 彼が手を振った。ボディーガードたちが一斉に飛びかかった。 ほどなくして、靖彦は床に押さえつけられた。 牧生が歩み寄り、靖彦の手を思いきり踏みつける。 「ぐっ!」と、靖彦は苦痛に呻いた。それでも歯を食いしばり、決して許しを乞おうとはしなかった。 「俺の女に触れたその手が気に入らない。潰してやる」 牧生はボディーガードから渡されたバットを受け取った。 そして、高々と振り上げる。 「やめて!」 私は狂ったように駆け出した。 牧生を押しのけ、傷だらけの体で靖彦をかばう。 「お兄ちゃんを叩いちゃダメ!お兄ちゃんは由実ちゃんに飴をくれるの!おじさんは悪い人!」 牧生は、まるで子供が大切なものを守るように、私が別の男をかばう姿を見つめた。 嫉妬に狂い、その顔はすっかり歪んでいた。 「そうか。いいだろ」 彼はバットをボディーガードへ放り投げた。 「そこまでこいつが大事なら、お前の目の前で、その指を1本ずつ叩き潰してやる」 ボディーガードがバットを振り上げた。 靖彦は必死にもがいた。 「由実ちゃん、早く逃げろ!俺のことはいい!」 私はそのバットを見つめた。 あれで叩かれたら、とても、とても痛い。 お兄ちゃんを痛い目に遭わせちゃいけない。 ふと、視線がローテーブルの上に置かれた果物ナイフへ向いた。 あのおばさんが言っていた――悪いことをしたら、弁償しなきゃいけない。 このおじさんが手を欲しがっているなら、私の手をあげればいい。 私は果物ナイフをつかんだ。 ためらうことなく、自分の左手の小指へ刃を入れる。 ズブッ…… 「やめろ!」 靖彦と牧生の叫び声が、同時に響いた。 鮮血が一気に噴き出した。 激痛で視界が真っ暗になった。 それでも、私は笑っていた。 私は切り落とされた小指を拾い上げ、震える手で牧生へ差し出した。 「おじさん、弁償するね…… 指、あげるから……お兄ちゃんを帰して、いい?」 牧生はその断ち切られた指を見つめたまま、完全に凍りついていた。 その顔色は、私よりも青白かった。 意識を失う直前まで、私は靖彦の服の裾をぎゅっと握りしめていた。 「お兄ちゃん……痛くないよ……」

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