妹のマウント投稿

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GoodNovel 完結

交通事故で入院したあと、私・日向渓子(ひなた けいこ)は妹の日向清美(ひなた きよみ)がサブ垢に投稿した内容を目にした。 【家族が心配してくれるから、傷だって痛くないの】 添付された写真には、絆創膏を貼った指と、私の夫・藤堂望(とうどう のぞむ)と息子・藤堂康太(とうどう こうた)が我先にと世話を見ている姿が写っていた。 いいねを押している人もいて、【こんなに優しい旦那さんと息子さんがいて、羨ましい】とコメントしていた。 妹はこう返していた。 【あの人はずっと私のことを愛してくれていた。でも、私が選ばなかったから、今は私の義兄なの。 でも、姉の息子のことは大好き。いつかあの子が私をママって呼んでくれたらいいな。 その日が来たら、姉に絶対にサプライズをするわ】 【サプライズ】という文字を目にした瞬間、背筋に冷たいものが走った。

チャプター (1)

第1章

交通事故で入院したあと、私・日向渓子(ひなた けいこ)は妹の日向清美(ひなた きよみ)がサブ垢に投稿した内容を目にした。 【家族が心配してくれるから、傷だって痛くないの】 添付された写真には、絆創膏を貼った指と、私の夫・藤堂望(とうどう のぞむ)と息子・藤堂康太(とうどう こうた)が我先にと世話を見ている姿が写っていた。 いいねを押している人もいて、【こんなに優しい旦那さんと息子さんがいて、羨ましい】とコメントしていた。 妹はこう返していた。 【あの人はずっと私のことを愛してくれていた。でも、私が選ばなかったから、今は私の義兄なの。 でも、姉の息子のことは大好き。いつかあの子が私をママって呼んでくれたらいいな。 その日が来たら、姉に絶対にサプライズをするわ】 【サプライズ】という文字を目にした瞬間、背筋に冷たいものが走った。 第1話 私はさらに清美のサブ垢をスクロールしていった。彼女は望と会うたびに、いつも得意げに投稿していた。 【私が「あなたが他の女のセクシーな姿を見るのは嫌だ」って軽く言っただけなのに、彼は家に帰って、あのババアに当たり散らしたのよ。 あのババア、自分が何か悪いことをしたから彼が不機嫌になったんだとでも思ってるんでしょうね。 小さい頃からずっと私より上で、成績はいいし、何を覚えるのも早いし、両親以外はみんなあの女のことばかり好きだった。 でも、それがどうしたっていうの?大人になった今、今度は私が目立つ番だわ】 清美がこの文章を投稿しているときの、あの得意げな表情までありありと想像できた。 写真の中で、露出の多いセクシーなランジェリーを身につけ、男の胸に寄り添っている女が彼女本人だと、私は一目でわかった。 そしてその隣にいる男が、私の夫である望だった。 頭の中が真っ白になった。 昔は望との間にもそれなりにロマンチックな時間があり、夫婦仲も良かった。 でも、ここ数年はどんどん冷え切っていった。彼の帰宅時間は遅くなる一方で、口数も少なくなっていった。 私は必死になって、なんとか関係を取り戻そうとした。この前の結婚記念日には、少しでもロマンチックな雰囲気にしようと、特別にオーダーメイドしたランジェリーを身につけた。 ところが、望は夜中の十二時近くになって、ようやく帰ってきた。驚いた様子もなく、むしろ眉をひそめ、目には嫌悪と苛立ちがありありと浮かんでいた。 「何をやってるんだ?渓子、お前は今や藤堂家の若奥様だぞ。少しは身なりを考えろ。こんな下品な真似はやめろ」 私は呆然として、何か言おうとしたが、彼に遮られた。 「疲れた。お前も早く休め」 そう言うと、彼はゲストルームへ行ってしまった。 結婚生活が長すぎるせいで、男には誰にでも倦怠期というものがあるのかもしれないと、私は何度も考えた。そして、あの手この手で彼の機嫌を取ろうとした。 けれど、彼の冷たさも、苛立ちも、数々の言い訳も、すべては清美のもとで十分に満たされていたからに過ぎなかったのだ。 …… ちょうどそのとき、望から電話がかかってきた。私は少し迷ったが、結局、通話ボタンを押した。 「何でそんなに何度も電話してくるんだ。電話に出ないときは用事があるって言っただろう。どういうつもりだ。そんなにしつこくかけてきて」 さっき事故に遭ったとき、私が真っ先に思い浮かべたのは彼だった。 彼に何度も電話をかけたが、聞こえてくるのは冷たい呼び出し音だけだった。 結局、通りかかった人が私と運転手を車から助け出し、病院まで連れて行ってくれた。 「私、交通事故に遭ったの」 私は落ち着いて言った。 電話の向こうで、数秒間の沈黙が流れた。 「大丈夫か?」 彼の声には少し驚きがにじんでいたが、心配している様子はほとんどなかった。 「大丈夫」 「まだ忙しいから、また後で連絡する」 「何が忙しいの?」 私は突然、そう尋ねた。 彼はまさか私がそんなことを聞くとは思っていなかったらしく、一瞬戸惑い、少し口ごもりながら言った。 「いや、別に。会社の用事がちょっとな」 「そう……で、清美の手は大丈夫なの?」 電話の向こうの望は明らかに動揺し、呼吸が少し荒くなった。 第2話 「どうしてそれを知ってるんだ」 私はそれ以上何も言わず、電話を切った。 7年間の結婚生活、7年間の献身。そのすべてが、結局はただの笑い話だった。 …… 翌朝、病室のドアが開いた。 看護師かと思ったが、入ってきたのは望と息子の康太だった。 望は、立派な箱に入った栄養補助食品をいくつか手にしている。 「渓子、見舞いに来たぞ」 私は何も言わず、冷たい目で彼を見た。 「昨日はお前が事故に遭ったなんて知らなかったんだ。清美が手を怪我したって言うから、様子を見に行った。仕事が全部終わってから行ったんだ。本当だよ」 私はやはり黙っていた。 「清美はお前の妹だろ。姉として、少しは気にかけてやるべきじゃないか。わざわざ俺にたくさん栄養補助食品を持たせてくれたんだぞ。ほら、気が利くだろ?」 康太は慌ててベッドのそばに駆け寄り、私の手を握った。 「ママ、大丈夫?すごく心配したんだよ」 息子のあどけない顔を見ていると、胸の奥がきゅっと痛んだ。 「ママは大丈夫。心配しないで」 そう言ってから、私は望のほうを向いた。 「私は怪我をしてるから、あなたをもてなす余裕はないわ。仕事が忙しいなら、もう帰っていいよ」 望の顔色が一瞬で曇った。 「渓子、いい加減にしろよ。清美はお前の妹だぞ。そんなことまでやきもちを焼くのか」 私は冷たく笑った。 「私、別にやきもちなんてないわ。彼女が欲しいなら、持っていけばいい」 望は私の言葉にぐっと詰まり、何も言えなくなった。 彼は私を一瞥し、それから康太を見て、康太の手を引くと、くるりと背を向けた。 「康太、行くぞ!」 康太は何度も振り返って私を見たが、望に逆らえず、引っ張られて病室を出ていった。 遠ざかっていく二人の背中を見ながら、私は深い無力感に襲われた。 二人がいなくなってから、私はスマホを手に取り、また清美のサブ垢を開いた。 案の定、また更新されていた。 【あいつ、事故に遭ったんだって。でも死ななかったなんて、ほんと、ついてるわ。 義兄がどうしても見舞いに行くって言うの。もうムカつく。まあいいけどね。私が心を込めて用意した栄養補助食品を持たせてあげたからね。 義兄は「お前は本当に気が利くな」って褒めてくれたわ。 あの栄養補助食品、実はドッグフードなのよ。表記が全部フランス語だから、義兄には読めないに決まってる。 姉は昔から勉強ができるでしょ?だったら、きっとわかるよね】 私は怒りで全身が震え、テーブルからそれらの栄養補助食品の箱を手に取った。 開けてみると、中身はやはり犬用の食べ物で、しかもすでに半分ほど食べられていた。 私は箱を床に勢いよく叩きつけた。中身が床一面に散らばった。 ちょうどそのとき、スマホが鳴った。父からだった。 「渓子、清美が手を怪我したのに、お前は少しも心配しないのか。姉として、どういうつもりなんだ」 「お父さん、私、事故に遭ったのよ」 「事故に遭ったから何だ。声を聞く限り、まだ元気そうじゃないか」 私はスマホを握る手に力を込めた。爪が手のひらに食い込むほどだった。 「清美が手を怪我したんだ。明日、お前も家に帰って顔を見せに来い」 父は私の怪我の具合を尋ねることもなく、誰かの助けが必要かどうかも聞かなかった。 私が何か答える前に、電話の向こうからツーッという音が聞こえた。 私はスマホを置き、ベッドの背もたれに寄りかかって目を閉じた。 幼い頃からずっとわからなかった。どうして私は何をやっても清美より優秀で、成績も良く、素直で聞き分けも良いのに、両親は私を好きになってくれなかったのだろう。 両親はいつも、泣き喚き、甘え上手で、人の機嫌を取るのが上手な妹ばかりを気にかけていた。 私はまるで余計者で、三人が楽しそうにしているのを、ただ遠くから眺めるしかない部外者のようだった。 第3話 私はまた清美のサブ垢を開いた。 【誰かさん、ちょっと事故ったくらいで大げさに気取っちゃって、ほんと死ねばいいのに! あれで男を操れるとでも思ってたんでしょ。結局、義兄を怒らせて追い返されただけじゃない。ははっ。 義兄は家に帰ってすぐ電話をくれたの。いろいろ心配してくれて、すごく私のことを気にかけてくれてるわ】 私はそれらの言葉を見つめ、歯を食いしばった。 翌日、私は父に言われた通り、実家に帰った。 結婚してから、実家に足を運ぶことはほとんどなくなっていた。 幼い頃のあれこれがあったから、私はずっと自分の居場所が欲しかった。温かくて、愛に満ちた自分の家が欲しかった。 望と結婚すれば、幸せな生活を送れると思っていた。けれど、結局は清美の影から逃れることなんてできなかった。 …… 玄関を入った途端、康太がリビングから駆け出してきて、私の足にしがみついた。 「ママ!」 胸がぎゅっと締めつけられるようになり、私はしゃがみ込んで、彼を強く抱きしめた。 康太が生まれてから、両親はいろいろな理由をつけて、康太を自分たちのもとで育ててきた。 「子育てを手伝ってあげる」と言いながら、実際には、私が康太と会える回数は数えるほどしかなかった。 康太は小さな声で、申し訳なさそうに言った。 「ママ、ごめんね。あの日、おばちゃんに会いに行ったのは、パパが『おばちゃんを見舞いに行けば、ママに会わせてやる』って言ったからなんだ。 すごくママに会いたかったの。ママが怪我してるなんて知らなかった」 心臓を何かで強くつかまれたように痛んだ。 「大丈夫よ、康太。ママは怒ってないから」 私は彼の髪を優しく撫でながら慰めた。 ちょうどそのとき、清美がリビングから出てきた。 彼女は作り笑いを浮かべ、まっすぐ私たちのところまで来ると、康太の手をぐいと引いた。 「康太、ケーキ食べに行こう。おばちゃんが連れて行ってあげるよ」 彼女の声は甘ったるく、目にはあからさまな挑発の色が浮かんでいた。 康太は明らかに行きたくなさそうで、清美の手を振りほどこうともがき、小さな顔を真っ赤にしていた。 「おばちゃんとは行きたくない。ママと一緒にいたい」 清美の笑顔が一瞬凍りついたが、すぐにまた作り笑いに戻った。 「康太、おばちゃんは康太の大好きなチョコケーキを買ったのよ。食べ終わったら、すぐママのところに戻ってこようね」 「いやだ!」 康太は頑なに首を横に振り、目に涙をためていた。 すると、望がリビングから出てきて、眉をひそめ、早足でこちらに近づいてきた。 「康太、外は寒いから、早く中に入れ」 そう言うと、彼は親しげに私の手を握り、少し媚びるような口調で続けた。 「渓子、今日は両親も家にいるし、もう怒らないでくれ。昨日は俺が悪かった。お前に辛い思いをさせた」 私は彼を見て、心の中で冷たく笑った。 昨日の清美のサブ垢には、こう書いてあった。 【明日は義兄があの女とラブラブなふりをしなきゃいけないの。あのババア、馬鹿みたいに喜ぶのかな。あいつの間抜け面を想像するだけで笑えるわ】 私は望の手を力いっぱい振り払い、冷たい目で彼を見た。 「触らないで」 それから、康太の手を引いて、そのままリビングへ入った。 母は私をちらりと見ただけで、何も言わなかった。 父は眉をひそめていた。 「帰ったか。玄関先で何をごちゃごちゃ騒いでいる。早く座りなさい」 私は康太と一緒にソファに座り、彼らを無視した。 すぐに、清美と望も中に入ってきた。 清美は目を赤くしていて、まるでひどく悲しんでいるかのような顔をしていた。 彼女はソファに近づき、父の隣に座ると、甘えるように言った。 「お父さん、お姉ちゃんが……」 「もういい。みんな家族だろ。話せばわかることじゃないか」 第4話 使用人が料理を運んできた。清美は望の隣に座ると、わざと怪我をした手を高く上げた。 「ああ、手がすごく痛くて、お箸もちゃんと持てないの。望さん、おかずを取ってくれない?」 望は私をちらりと見て、少し迷ったようだった。 私は冷笑して口を開いた。 「家にはこんなにたくさん使用人がいるのに、清美お嬢様のお世話もろくにできないの?」 私の言葉に、両親の顔色が一瞬で曇った。 「渓子、あんたね。清美はあんたの妹でしょう。手を怪我してるんだから、望がおかずを取ってやったっていいじゃないか。あんたには妹を気遣う気持ちもないのかい?」 「あの程度の傷なら、病院に行くのが遅れていたって治るくらいでしょ。私が事故に遭ったときは、家族の誰も電話に出てくれなかったわ。あのとき、どうして私のことは心配してくれなかったの?」 父は激しくテーブルを叩き、立ち上がった。 「渓子、お前が怪我したのはわかってる。でも清美だって怪我したんだろう!よくもそんな言い方ができるな!」 私は望を見た。目は冷え切っていた。 「望、あなたもそう思ってるの?」 望は私の視線から逃れるように目を逸らし、何も言わなかった。 清美はそれを見て、泣きじゃくりながら言った。 「お父さん、お姉ちゃんは昔から私のことが嫌いなのよ。小さい頃から何をやってもお姉ちゃんのほうが上だった。私がこんなことを言うべきじゃないのはわかってる。でも、今日のお姉ちゃんの言葉は、本当にひどすぎるわ」 そう言うと、清美は泣きながら走り出ていった。 望は私を一瞥すると、それから後を追って出ていった。 両親は私を見つめ、その目には失望と怒りが溢れていた。 「渓子、何てことをしてくれたの!」 母は私を指さし、怒りで全身を震わせていた。 「妹にあんな言い方をして、ごめんなさい」 私は落ち着いた声で言い、康太の手を引いて立ち上がった。 「これ以上ここで邪魔はしないわ。康太を連れて帰る」 「だめだ。康太はここに置いて、お前は一人で帰れ」 「お父さん、康太は私の実の息子よ。どうして連れて帰ってはいけないの?」 「だめなものはだめだ!お前は今の状態じゃ、到底子育てなんかできない。康太はうちに置けば、俺たちがちゃんと面倒を見る」 私は康太の小さな手をぎゅっと握りしめた。 「康太は私の実の息子よ。十月十日もかけて、お腹の中で育み、産んだ子なのに、どうして連れて帰っちゃいけないの?」 母の目が一瞬揺れ、私の視線から逃れるように目を逸らした。父は眉をひそめ、ぶっきらぼうに言った。 「理由なんてない。俺たちが決めたことだ。お前は今の状態じゃ、まともに子育てなんてできるわけがない。康太はうちで預かる。俺たちがちゃんと面倒を見るから、心配するな」 「自分で育てるわ。これからは康太は私が育てる。お父さんたちに心配してもらう必要はない」 両親の顔色がわずかに変わり、目に一瞬、動揺が走った。それでも、すぐにまた冷たい表情に戻った。 私は彼らを見つめながら、胸の奥で疑念が膨らんでいくのを感じた。 どうしてそこまで頑なに康太を連れて帰らせまいとするのか。もしかすると、この裏には私の知らない何かがあるのかもしれない。 私は康太の頭をそっと撫で、優しい声で言った。 「康太、いい子にしててね。ママはちょっと用事があるから先に帰るけど、すぐに迎えに来るから。約束するわ」 康太は不満そうだったが、それでもこくりと頷いた。 「ママ、絶対に早く迎えに来てね」 「ええ、絶対よ」 私は涙を必死にこらえ、背を向けて、心まで凍りつきそうな実家をあとにした。 誰もいない自宅に戻ると、私はスマホを手に取り、清美のサブ垢を開いた。 【誰かさん、今日私に恥をかかせようとするなんて、ほんと死ねばいいのに!】 第5話 【まあいいわ。ちょっと泣きつけば、義兄は結局おとなしく私を追いかけてくるんだから】 その下には、写真が一枚添えられていた――望が裸でベッドに横たわり、ぐっすり眠っている。その隣で、清美はセクシーなネグリジェを身につけ、彼に寄り添っていた。 二人とも顔は写っていなかったが、それでも私は、清美の得意げな表情が目に浮かぶようだった。 【誰かさん、一人で寂しく夜を過ごす気分はどうかしら? もうあの女には我慢できない。近いうちに、絶対に真実を教えてやる。 あいつが持っているものは、全部あいつのものじゃないってことを思い知らせてやるわ】 清美が言う「全部あいつのものじゃない」とは、どういう意味なんだろう。 落ち着いて、これからどうすればいいのか、よく考えなければ。 数日後、清美から突然電話がかかってきた。大事な話があるから実家に来てほしいと言われた。望と彼の両親も来るという。 心のどこかで嫌な予感がしていたが、それでも彼女が何を企んでいるのか確かめるため、行くことにした。 実家に着いて玄関を入ると、リビングには人が大勢集まっていた。 両親はソファに座り、険しい顔をしていた。望と彼の両親もそこにいた。 そして清美はリビングの真ん中に立ち、不気味な笑みを浮かべていた。 私が入ってくるのを見ると、清美はすぐに口を開いた。 「お姉ちゃん、やっと来たわね。今日はね、みんなの前ではっきりさせなきゃいけないことがあるの」 私は清美を見つめたまま、何も言わなかった。 「ずっと我慢してきたの。もう言わないと、私、病気になりそうなくらいなんだから」 清美の口調には、少し悲しげな響きがあった。望と私の両親は顔色を変え、清美を止めようとしたが、彼女は頑なに話し続けた。 「あのとき、お姉ちゃんが産んだ子はね、生まれたときにはもう死んでたのよ」 全身の血の気が、一気に引いていくのを感じた。 「お姉ちゃんを悲しませないように、お父さんとお母さんと私で相談して、私の子をお姉ちゃんの子ってことにしたの。お姉ちゃんが産んだことにして、嘘をついてね。 実は、海斗こそがお姉ちゃんが産んだ子なのよ」 頭の中が真っ白になり、自分の耳が信じられなかった。日向海斗(ひなた かいと)、生まれたときには、すでに亡くなっていた清美の息子だ。 あの頃、清美は未婚のまま妊娠していて、どうしても子どもの父親が誰なのか話そうとしなかった。 私が出産した日、私と清美はちょっとしたことで口論になり、彼女が私を突き飛ばした。 両親と望が駆け込んできたとき、彼女はわざと床に倒れて、私に押されたと言った。 彼らは清美の言葉を聞くと、すぐに清美を病院へ連れて行き、床に倒れていた私のことなど完全に無視した。 結局、家の使用人が私に気づき、病院へ運んでくれた。 私の両親の顔色はさらに険しくなり、鋭い声で制止した。 「清美、何をでたらめ言ってるんだ。今、そんな話をする時じゃないだろう!」 しかし、清美は聞こえていないかのように、話を続けた。 「お父さん、お母さん、ずっと私に康太の本当の父親は誰なのかって聞いてたでしょ?」 清美は望を指さした。 「実は、康太の本当の父親は、望さんなの」 望の両親の顔色が一瞬で変わった。二人は望を見た。 「望、これはいったいどういうことだ?清美の言ってることは本当なのか?」 望は青ざめ、うつむいたまま黙り込んだ。 清美は得意げに笑い、望の両親に言った。 「お義父さん、お義母さん、安心して。康太は姉の子じゃないけど、それでも二人の本当の孫には変わりないから。血のつながりを心配する必要はないわよ」 私は冷たく笑って清美を見た。 「そう?本当にそうなのかしら?」

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