私の未来に、もうあなたはいらない

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私の未来に、もうあなたはいらない

GoodNovel 完結

卒業写真を撮る日、ゼミごとに並んで撮影することになった。 私が恋人の江口洸平(えぐち こうへい)の隣に立つと、すぐに周りから囃し立てる声が上がった。 「晴奈を洸平の隣に立たせようよ!」 「そうだよ。晴奈は学科一の美人なんだから、学科一のイケメンと並ばなきゃ!」 私――高梨琴音(たかなし ことね)が戸惑っているうちに、幼なじみの長谷川陽介(はせがわ ようすけ)が私の腕をつかみ、小川晴奈(おがわ はるな)と立ち位置を入れ替えた。 「琴音、晴奈と代わって。卒業写真くらいなんだから、譲ってあげなよ」 洸平は笑ったまま、断ろうとはしなかった。 ただ少し横へずれ、晴奈のために場所を空けた。 私はその場に立ち尽くし、無意識に髪につけた髪留めへ触れた。 洸平が初めてプレゼントしてくれたものだった。 鏡の前で何度もつけ直しながら、洸平と一緒にきちんとした写真を一枚撮りたいと思っていた。 撮影直前、洸平がふいに私を呼んだ。 「琴音」 胸が跳ねた。 次の瞬間、洸平は手を伸ばし、私の髪から髪留めを外した。 「晴奈の髪が乱れてるから、ちょっと借りるな」 周囲から、また囃し立てる声が上がった。 晴奈はうつむいて笑った。 洸平も何も説明しなかった。 カメラマンが声を張り上げた。 「はい、卒業おめでとう!」 全員が声をそろえる中、私は一番端に立っていた。 その瞬間、自分がこの場に必要のない存在なのだと、はっきり分かった。 洸平の卒業写真に私の居場所がないのなら、これから先の私も、もう洸平には関係ない。

チャプター (1)

第1章

卒業写真を撮る日、ゼミごとに並んで撮影することになった。 私が恋人の江口洸平(えぐち こうへい)の隣に立つと、すぐに周りから囃し立てる声が上がった。 「晴奈を洸平の隣に立たせようよ!」 「そうだよ。晴奈は学科一の美人なんだから、学科一のイケメンと並ばなきゃ!」 私――高梨琴音(たかなし ことね)が戸惑っているうちに、幼なじみの長谷川陽介(はせがわ ようすけ)が私の腕をつかみ、小川晴奈(おがわ はるな)と立ち位置を入れ替えた。 「琴音、晴奈と代わって。卒業写真くらいなんだから、譲ってあげなよ」 洸平は笑ったまま、断ろうとはしなかった。 ただ少し横へずれ、晴奈のために場所を空けた。 私はその場に立ち尽くし、無意識に髪につけた髪留めへ触れた。 洸平が初めてプレゼントしてくれたものだった。 鏡の前で何度もつけ直しながら、洸平と一緒にきちんとした写真を一枚撮りたいと思っていた。 撮影直前、洸平がふいに私を呼んだ。 「琴音」 胸が跳ねた。 次の瞬間、洸平は手を伸ばし、私の髪から髪留めを外した。 「晴奈の髪が乱れてるから、ちょっと借りるな」 周囲から、また囃し立てる声が上がった。 晴奈はうつむいて笑った。 洸平も何も説明しなかった。 カメラマンが声を張り上げた。 「はい、卒業おめでとう!」 全員が声をそろえる中、私は一番端に立っていた。 その瞬間、自分がこの場に必要のない存在なのだと、はっきり分かった。 洸平の卒業写真に私の居場所がないのなら、これから先の私も、もう洸平には関係ない。 第1話 集合写真の撮影が終わると、自由に写真を撮る時間になった。 洸平と晴奈が並ぶと、まるで初めから結ばれる運命だったかのようにお似合いだった。 カメラを構えた陽介が、後ろから私に手を振った。 「琴音、ちょっとどいて。写り込んでる」 私は黙って横へ一歩ずれた。 3人はたっぷり2時間、ポーズを変えながら、2人で、3人で、何枚も写真を撮った。 けれど、最後まで誰一人として言わなかった。 「琴音も一緒に撮ろう」と。 私はグラウンドをあとにし、教室へ戻って自分の荷物を片づけた。 教室を出ようとしたとき、近くにいた女子たちの話し声が聞こえてきた。 「江口くんと小川さんって、やっぱり大学でも有名な2人だけあるよね。本当にお似合い」 「長谷川くんもかっこいいよね。ああいう爽やか系のイケメンっていうか……でも、正直さ」 「高梨さんって、あの3人と一緒にいると浮いてない?」 「なんで無理にあの3人にくっついてるんだろうね。今日も写真に入れてもらえなかったらしいよ……」 大量の本を抱えたまま、人気のない廊下で足を止めた。 窓の外に舞い落ちる葉を見つめながら、黙って考えた。 これで何度目だろう。 一緒に何かをするたび、私の存在を忘れられるのは。 そばにいることさえ、他人から不自然に思われるのは。 晴奈と陽介は、幼い頃から一緒に育った友達だった。 2人とも容姿が整っていて明るく、同級生からも人気があった。 昔から、2人はいつも周囲の中心にいた。 一方の私は、その後ろをついて歩き、荷物を持つだけの「あの子」だった。 本当は私も、誰か一人くらい、自分を見てくれたらと思っていた。 洸平と出会ったとき、ようやく私だけを見てくれる人に巡り会えたのだと思った。 けれど結局、私はまた、ただの脇役になった。 スマホの通知音が鳴った。 晴奈がSNSに9枚の写真をまとめて投稿していた。 洸平の背中におぶさり、首に腕を回して、晴奈は満面の笑みを浮かべていた。 コメント欄には「お似合い」「末永くお幸せに」という言葉が次々と並んでいた。 陽介もコメントしていた。 【これで、うちの大学一の美男美女にも一生ものの写真ができたな!】 続けて洸平が書き込んだ。 【これで誰かさんも、もう心残りはないだろ】 晴奈が返信した。 【はあ?心残りだったのは私だけじゃないでしょ!誰かさん、自分のことは棚に上げて、全部私のせいにするんだから!】 その下には、3人がふざけ合うコメントがいくつも続いていた。途中で誰かが私の名前を出していたような気もした。 私は返信しなかった。 誰も気に留めなかった。 晴奈の投稿に「いいね」を押した。 少し考えてから、洸平とのトークのピン留めも外した。 だったら、その心残りは私がなくしてあげる。 …… 帰宅すると、スマホにメッセージの通知が表示された。 私たち4人のLINEグループだった。 晴奈が私をメンションしていた。 【琴音、あのSNSの投稿、あまり気にしないでね。洸平と賭けをして、負けた洸平が約束を守っただけだから】 第2話 私は返信せず、母のほうを振り返った。 「お母さんのところで、次のIELTSの申込手続きってもうできる?」 母は少し驚いた。 「もうすぐ始まるけど、受けるの?」 私がうなずくと、母はさらに驚いた様子で尋ねた。 「前は洸平くんと一緒に東央市で働くって言ってなかった?」 卒業が近づいた頃、私は洸平と一緒に東央市で働こうと約束していた。 けれど晴奈の誕生日会で、洸平が彼女に宛てた手書きの手紙を偶然目にして、初めて知った。 洸平が東央市を選んだのは、晴奈のためだった。 陽介も東央市へ行くつもりだった。 3人で東央市にいれば、何かあったときに晴奈の面倒を見られると話していた。 3人でひとしきり話し合ったあと、ようやくそばに座っていた私の存在を思い出した。 洸平は何気なく言った。 「琴音も一緒に来れば?一人でも多いほうが、何かと心強いだろ」 晴奈のためには、わざわざ3人で就職先まで東央市に決めた。 私が加わる理由は、ただ一人でも多いほうが何かと心強いからだった。 私はぎこちない笑みを浮かべた。 「今は、あまり行きたいと思わない」 どうせ私がいてもいなくても、何も変わらない。 母は私の目を見つめ、少し黙り込んだ。 結局、何も聞かずに私の頭を撫でた。 「じゃあ、IELTSの結果が出たら、留学の出願手続きを進めよう」 私はうなずき、自分の部屋に閉じこもった。 もう一度スマホを見ると、さっきのメッセージには洸平が私の代わりに返信していた。 【誰もが晴奈みたいだと思うなよ。琴音は聞き分けがいいから、こんなことで気にしたりしない】 私は「聞き分けがいい」という言葉をじっと見つめた。 本当は、気にしていた。 洸平は私の恋人なのに、周りは皆、洸平と晴奈こそお似合いの二人だと思っていた。 洸平は一度も否定せず、周りが二人を囃し立てるままにしていた。 私はずっと気にしていた。 洸平にも、不満を伝えたことがあった。 4人で映画を観た帰り道だった。 私は洸平の手をつかみ、思い切って口にした。 「洸平、晴奈とはもう少し距離を置いてくれない?」 洸平は驚いたように私を見たが、すぐに気にする様子もなく笑った。 私の頭を撫でながら、困ったような口調で言った。 「俺だって好きで一緒にいるわけじゃないよ。晴奈が琴音の友達じゃなかったら、あんなわがままなやつと遊んだりしないって。もう少し聞き分けよくしてくれよ。こんなことでいちいち気にするなって。ほら、二人が前で呼んでる。早く行こう」 言い終える前に、洸平は大股で先へ歩き出した。 洸平の袖をつかんでいた私の手は、するりと外れた。 今日と同じだった。 私の不満も抵抗も、すべて「聞き分けがいい」のひと言で、軽く片づけられてしまった。 そのとき、LINEグループに晴奈から音声メッセージが届いた。 「いい気にならないでよ。今度また私に負けたら、おんぶだけじゃ済まないからね!」 洸平はすぐに返信した。 【望むところだ】 洸平とのトーク画面を開いた。 昨日の20時、私は東央市の求人情報を送り、応募してみたいと伝えていた。 2時間後、洸平から返ってきたのは、たったひと言だった。 【うん、いいんじゃない】 さらに遡ると、その前にやり取りしたのは3日前だった。 卒業論文の進み具合を尋ねると、1時間後に返事が来た。 【まあまあ】 けれど私がメッセージを送ったのと同じ頃、洸平はLINEグループで晴奈が送ったスタンプにすぐ反応していた。 過去へ遡るほど、洸平の返信は長く、真剣なものになっていった。 最近になるほど短く、投げやりになっていた。 そのとき、LINEグループでまた私がメンションされた。 画面を開き、添付された写真を見た瞬間、私は固まった。 晴奈が私をメンションしていた。 【琴音!ごめん、うっかり髪留めを壊しちゃった!いくらだった?弁償するね】 返信を打とうとしたところで、洸平からメッセージが届いた。 【いいよ。髪留め一つくらい、たいした値段じゃない】 その言葉を見つめたまま、私の指が止まった。 晴奈が私のものを壊すたび、洸平が代わりに「いいよ」と許してきたことを思い出した。 第3話 晴奈がうっかり私の数学オリンピックの申込書を破いてしまったとき、洸平はそれを丸めてゴミ箱に捨てた。 「大丈夫だよ。琴音が先生からもう一枚もらえばいいんだから」 晴奈が私の服に落ちないインクを飛ばしてしまったとき、洸平は笑いながら彼女の涙を拭いた。 「大丈夫だって。この汚れ、むしろ柄みたいで悪くないし、まだ着られるよ」 晴奈が、母から入学祝いにもらったペンをなくしたとき、洸平は彼女の前に立ちはだかり、眉をひそめた。 「何が問題なんだよ。そのペン、もう3年も使ったんだろ。そろそろ買い替え時じゃないか」 私が少しでも嫌な顔をすると、洸平は決まって私の髪を撫で、優しい声で言った。 「ほらほら、琴音は晴奈と違って聞き分けがいいだろ。あいつと張り合うことないって」 今ではもう、洸平は私に代わって晴奈を許すことに、すっかり慣れてしまったようだった。 案の定、晴奈がまだ気にしているのを見ると、洸平はもう一度返信した。 【琴音は聞き分けがいいから、お前が思ってるほど心の狭い子じゃないよ】 私はそのメッセージを長い間見つめていた。 そしてようやく、その日初めてのメッセージを送った。 【洸平、私、そんなに聞き分けよくないよ】 LINEグループはしばらく静まり返った。 それまで何も発言していなかった陽介が、疑問符を一つ送ってきた。 直後、洸平から電話がかかってきた。 「琴音、どうしたんだよ。髪留め一つだろ。なんでそこまで晴奈を責め立てるんだ?」 「洸平、私は晴奈を責めてない」 「じゃあ、どうしたいんだよ?晴奈はお前の親友だろ。今までは何があっても大目に見てたのに、どうして髪留め一つでそんなにこだわるんだ?」 「前に洸平が言ったんじゃない。私にも、嫌だったって言う権利があるって」 洸平は言葉に詰まった。 そのとき、電話の向こうから晴奈の涙声がかすかに聞こえてきた。 「ごめんね。私のせいで二人の仲が悪くなっちゃった?私……今から琴音にちゃんと謝りに行く……」 私は戸惑った。 「二人とも、今一緒にいるの?」 洸平が晴奈を引き止めた。 そして、困り果てたような声で再び話し始めた。 「グループで晴奈にあんなことを言うから、心配になって様子を見に来たんだよ。それに、こんなことで何がそんなに嫌なんだ?晴奈だってわざと壊したわけじゃないだろ」 「じゃあ、私がわざと困らせてるって言いたいの?」 洸平はいら立った声を上げた。 「今日はどうしたんだよ。やけに突っかかってくるな。あれは俺が買ったものなんだから、どうするかは俺が決める。晴奈は弁償しなくていい。それで何が不満なんだよ?」 私は口を開いたものの、何も言えなかった。 電話の向こうで二人がしばらく小声で話したあと、晴奈が電話を代わった。 「琴音、今日、生理なの?それで機嫌が悪いんじゃない?生理のときはちゃんと体を大事にしないと……」 その向こうから、すでに落ち着きを取り戻した洸平の声が聞こえた。 「琴音は今日じゃないよ。ただ拗ねてるだけ」 拗ねているだけ。 私はうなずいた。 もう、どうでもよかった。 どうせもうすぐ離れるのだから、二人のことも私には関係ない。 電話が切れる直前、洸平が晴奈に言った。 「もう相手にしなくていいよ」 …… 私はベッドのそばに長い間座っていた。 外がすっかり暗くなった頃、スマホを開き、4人のLINEグループから退会した。 翌日、卒業前にもう一度先生へ挨拶しようと大学へ向かった。 研究室のドアを開けると、そこには洸平と晴奈もいた。 洸平は意外そうに私を見た。 「琴音も来たのか?」 晴奈が説明した。 「昨日、LINEグループで先生に挨拶しに行く人がいるか聞いたんだけど、琴音から返事がなかったから、来ないのかと思ってた」 二人はまだ、私がグループを抜けたことに気づいていなかった。 私は先生に花束を渡した。 先生は笑顔で受け取り、私たちに卒業後の進路を尋ねた。 洸平と晴奈は、どちらも東央市で働く予定だと答えた。 私の番になると、洸平が代わりに答えた。 「琴音も俺と同じです」 先生は笑いながら、何かをほのめかすように言った。 「高梨さんのSNSに、最近は二人の写真が全然載っていないから、もう江口くんとは別れたのかと思っていたわ」 洸平は気にも留めなかった。 「そんなわけないですよ。琴音は内向的で、人前で仲のいいところを見せたがらないだけです」 私は何も言わなかった。 以前は、SNSに洸平との日常を投稿していた。 第4話 先生もそれを見て、「いいね」を押してくれていた。 けれど洸平が晴奈と親しくなるにつれ、私の投稿から二人きりの写真は少しずつ消えていった。 あるのは4人で撮った写真か、私が3人を撮った写真ばかりだった。 真ん中にいるのは、いつも晴奈だった。 洸平が遠回しな言葉に気づかないのを見て、先生は首を振り、二人に外で待つよう告げた。 そして私だけを残し、静かに言った。 「高梨さん。もしその関係があなたを支えてくれるどころか、苦しめるばかりなら、これからも続けるべきか、よく考えたほうがいいと思うわ」 ガラス越しに、ドアの外で晴奈が何かを言い、大声で笑う姿が見えた。 洸平は晴奈を見つめ、その目にもかすかな笑みを浮かべていた。 私はしばらく二人を見つめ、静かに息を吐いた。 それから先生に微笑んだ。 「分かりました。ありがとうございます」 外へ出ると、二人はもう廊下にいなかった。 スマホを見ると、洸平からメッセージが届いていた。 【晴奈がどうしても公園の猫に餌をあげたいっていうから、先に連れていく。東央市行きの航空券、忘れずに取っておけよ。俺と晴奈は9時の便だから、お前も同じ便にして。東央国際空港で待ち合わせよう】 私はふっと笑い、返信した。 【分かった】 出発の日は、雲一つない晴天だった。 重いスーツケースを引いて空港へ入ったが、洸平の姿はなかった。 しばらくすると、メッセージが届いた。 【琴音、晴奈がお腹痛いっていうから、先に搭乗する。東央市に着いたら鴨料理を食べに連れていくから、ちゃんと来いよ】 私は返信せず、洸平を連絡先から削除した。 洸平。私は最初から、聞き分けのいい子でいたかったわけではない。 もう二度と、その場に残って洸平が振り返るのを待つつもりもなかった。 スマホをしまい、国際線のチェックインカウンターへ向かった。 …… その日の15時、洸平と晴奈を乗せた飛行機が東央市に到着した。 二人が空港を出ると、先に着いていた陽介が待っていた。 陽介は呆れたように言った。 「二人とも遅すぎるだろ。最初から同じ便にしようって言ったのに、晴奈が朝は起きられないって言い張るから」 晴奈は唇を尖らせた。 「何よ、文句あるの?」 陽介は笑いながら晴奈の荷物を受け取った。 「まさか。お嬢さまに逆らえるわけないだろ。俺たちの中で一番怒らせちゃいけないのは晴奈だからな」 後ろから歩いてきた洸平が、二人にスマホを見せた。 「予約した車が着いた。行こう」 「あ、待てよ」 陽介がふいに声を上げた。 「琴音は?」 言われて初めて、洸平は4人のうち一人がいないことに気づいた。 気まずそうに鼻を触り、俯いて電話をかけた。 「今どこにいるか聞いてみる。琴音はいつものんびりしてるからな……」 晴奈は眠そうに目をこすった。 「まだ後ろにいるんじゃない?琴音だって子どもじゃないんだから、迷子になるわけないでしょ。それより先に行かない?私、眠い」 洸平はスマホを耳に当てたまま、困ったように笑った。 「出発のときもお前のせいで琴音を待てなかったんだ。ここでも置いていったら、今度こそ本気で怒られる」 晴奈は不満そうに唇を尖らせた。 「だってお腹が痛かったんだもん。だったら私が二人を仲直りさせてあげる」 陽介も笑った。 「分かった、分かった。琴音が出てきたら、俺からも話してやるよ。それでいいだろ?」 3人は空港で1時間待った。 陽介が眉をひそめた。 「まだ出てこないのか?二人と同じ便だったんだろ?」 晴奈が答えた。 「琴音って、いつものんびりしてるじゃない。そんなに焦らなくてもいいでしょ」 洸平は言った。 「琴音のスマホ、電源が切れてる。琴音のお母さんに電話してみる」 電話がつながると、洸平は穏やかな声で尋ねた。 「琴音から何か連絡はありませんでしたか?東央国際空港で琴音が見つからなくて」 電話の向こうはしばらく沈黙した。 やがて、琴音の母が答えた。 「琴音は東央市には行ってないわ。海外へ行ったの。知らなかったの?」

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