七年間、誰にも知らせなかった噓

プロモーションを読み込み中...

七年間、誰にも知らせなかった噓

GoodNovel 完結

深夜、なんとなくSNSを眺めていたら、【みんなのウェディングフォトが見たい】という投稿が目に留まった。 私も自分のウェディングフォトをコメント欄に載せようとしていた、まさにその矢先のことだった。一番多く「いいね」がついたコメントに、夫の瀬川拓朗(せがわ たくろう)と私の従姉、井尾真梨乃(いお まりの)が並んで写る結婚写真を見つけてしまったのだ。 頭の中で鈍い音が響き、目の前が真っ白になった。 震える指でそのアカウントのプロフィールを開くと、百件を超える投稿のほとんどが、ふたりのウェディングフォトで埋め尽くされていた。 下までスクロールして一番古い投稿を開くと、親友の金川美也子(かねがわ みやこ)のコメントが一番上に表示されていた。 【やっと公開したんだね。この日をどれだけ待っていたことか。末永くお幸せに】 さらに、私の母のコメントも続いていた。 【ふたりともお似合い。ちゃんと仲良くやりなさいね】 その下にも共通の友人や親戚たちの言葉がずらりと並び、誰もが同じように祝福していた。 頭の中で、最後の一本の糸がぷつりと切れたような気がした。 最初から最後まで、何も知らされていなかったのは私、白石佳乃(しらいし よしの)だけだったのだと、そのとき初めて気づいた。

チャプター (1)

第1章

深夜、なんとなくSNSを眺めていたら、【みんなのウェディングフォトが見たい】という投稿が目に留まった。 私も自分のウェディングフォトをコメント欄に載せようとしていた、まさにその矢先のことだった。一番多く「いいね」がついたコメントに、夫の瀬川拓朗(せがわ たくろう)と私の従姉、井尾真梨乃(いお まりの)が並んで写る結婚写真を見つけてしまったのだ。 頭の中で鈍い音が響き、目の前が真っ白になった。 震える指でそのアカウントのプロフィールを開くと、百件を超える投稿のほとんどが、ふたりのウェディングフォトで埋め尽くされていた。 下までスクロールして一番古い投稿を開くと、親友の金川美也子(かねがわ みやこ)のコメントが一番上に表示されていた。 【やっと公開したんだね。この日をどれだけ待っていたことか。末永くお幸せに】 さらに、私の母のコメントも続いていた。 【ふたりともお似合い。ちゃんと仲良くやりなさいね】 その下にも共通の友人や親戚たちの言葉がずらりと並び、誰もが同じように祝福していた。 頭の中で、最後の一本の糸がぷつりと切れたような気がした。 最初から最後まで、何も知らされていなかったのは私、白石佳乃(しらいし よしの)だけだったのだと、そのとき初めて気づいた。 第1話 私は取り憑かれたように、従姉の投稿を端から読み漁った。 5年前までさかのぼると、最初の投稿もやはりウェディングフォトで、こんな言葉が添えられていた。 【ずっと好きだった彼が選んでくれたドレスを、やっと着ることができた。 1日がかりの撮影だったのに、彼はどこまでも優しくて辛抱強かった】 じわりと、目の奥が熱くなった。 その前日は、私と拓朗が結婚写真を撮った日だったからだ。 写真の中の拓朗は笑っていた。従姉のポーズに自然に合わせ、キスされた瞬間には耳まで赤くしていた。 なのに、私と撮ったときの拓朗は、最後まで表情ひとつ変えなかった。 1枚1枚をたどるうちに、ふたりの5年間が少しずつ浮かび上がってきた。 世界各地を旅しながら撮影を重ね、行く先々にふたりの足跡を残していたようだった。 短かった従姉の髪は腰まで伸び、ドレスも簡素なサテンから、手の込んだ刺繍入りのものへと変わっていった。 拓朗は根っからの仕事人間で、結婚式の直前まで仕事をしているような人だ。それなのに、二週間に一度は必ず従姉との撮影に付き合っていたのだ。 この5年間の記憶が、走馬灯のように頭の中を駆け巡った。 数えきれない残業の夜。週末に突然入る「出張」記念日のたびに繰り返された「仕事が忙しくて」という言い訳。 そのすべてに、投稿の日付がぴたりと重なっていた。 私が仕事で上司に理不尽な扱いを受けていた日、ふたりはアイスランドのオーロラの下、一枚のカシミアの毛布に一緒にくるまっていた。 私が流産して、ひとり病院のベッドで痛みに耐えていた日、ふたりはニュージーランドの善き羊飼いの教会の前でキスをしていた。 拓朗の時間は、私と従姉に半分ずつ分けられていた。ただ、私に回ってくる半分は、いつもどこか欠けたものだった。 心臓を刃物で抉られたように、息もできないほどの痛みが押し寄せた。 震える手で拓朗とのトーク画面を開いた。最後のメッセージは今日の午後のものだった。 【急な出張が入った。夜は待たなくていい】 結婚してから、拓朗は付き合いで朝まで帰らないことが多かった。 そのたびに連絡を取ろうとしても、拓朗が電話に出ることはなかった。返事が来るのは翌日になるか、出張に同行している秘書から代わりに連絡が来るかのどちらかだった。 いつものように電話をかけてみたけれど、やはり拓朗は出なかった。 しばらくして、代わりにかけ直してきたのは美也子だった。 「よしのちゃん、拓朗さん酔っちゃって電話に出られないの。もうホテルに着いてるから心配しないで」 美也子は私の親友であり、拓朗の秘書でもある。いつも彼の行動を私に報告してくれる存在だった。 「私がついてる限り、拓朗さんに浮気なんてさせないから」と、冗談めかして言っていたこともある。 私は従姉の最新の投稿に目を落とした。添えられていたのは、拓朗から送られてきたメッセージのスクリーンショットだった。 【今夜は残業なし。家に帰って、ずっとそばにいるから】 私は初めて強い口調で問い返した。 「本当に?本当に出張中なの?」 美也子は一瞬黙り込み、それから笑って言った。 「なに、私のことまで疑うの?」 それ以上は何も聞けなかった。電話を切ったあと、気づけば涙が止まらなくなっていた。 みんなが私を騙していた。一番信じていた人にまで、騙されていたのだ。 【私の男を奪っておいて、本垢で堂々と載せる度胸もないくせに、裏垢でこそこそやるなんて、自分でも恥ずかしいと思わないの?】 私は元の投稿のコメント欄に、そう打ち込んだ。 第2話 翌日、私を待っていたのは真梨乃からの抗議ではなく、拓朗の非難だった。 「真梨乃がうつ病だと知っていながら、どうしてあんなことを書いて彼女を刺激したんだ!? 今朝、大量の睡眠薬を飲んだんだ。俺が気づいて病院に運んでいなければ、今頃死んでいたはずだぞ!」 出張だという嘘が露見したことなど意に介さず、拓朗はそれを釈明する気もないまま、有無を言わさず私を病院へ連れて行った。 「お前の口から、彼女に説明しろ。何かの間違いだったと。 彼女は、俺と自分が一緒になるものだと思ってるんだから」 あまりの理不尽さに、全身から力が抜けた。 私は信じられない思いで彼を見つめた。 「今、なんと言ったの?」 拓朗はまるで大したことでもないように言い放った。 「彼女はうつ病なんだ。少しはお前が譲ってやれ」 病室には大勢の人が集まっており、私の友人たちがこれほど一堂に会するのを見たのは初めてだった。 自分の結婚式のときでさえ、みんな揃って来てくれることはなかったというのに。 潔癖症で知られる母が、真梨乃の吐瀉物を嫌な顔ひとつせず手際よく拭き取っていた。 けれど、私が流産したあの年、母は血の匂いが嫌だと言って病室に入ろうともしなかった。 美也子が冷ややかな声で言う。 「いい加減にしてよ。危うく真梨乃を死なせるところだったのよ?」 母も私を睨みつけた。 「本当に情けない子ね。あんなものを書く前に、少しは考えなさい。さっさと真梨乃に謝りなさい」 周りの人たちは口には出さないものの、暗に私が謝るのを促しているようだった。 夫と5年間も隠れて付き合い、結婚写真まで撮っていたのは真梨乃のほうなのに。 被害者は私のはずなのに、私から全てを奪った相手に頭を下げなければならないなんて。 しばらくして、私はやっとのことで短い言葉を絞り出した。 「……なんで、私が…… 私が彼女に、人の結婚を壊せって言ったの?睡眠薬を飲めって言ったのも私?」 真梨乃の顔が青ざめる。 「私が……あなたの結婚を、壊した?」 私はスマホを取り出し、拓朗との婚姻届受理証明書の写真と結婚式の映像を開いて見せた。 「私たちはもう5年前に結婚してるの。それなのにあなたは5年もの間、私の夫に付きまとっていた。それこそ、私の結婚を壊してるんじゃないの?」 私の言葉を遮るように、母が真梨乃をなだめにかかった。 「真梨乃、あの子の言うことなんて気にしなくていいのよ。拓朗とあなたこそが、本当の夫婦だって、みんな分かってるから」 美也子の顔つきも険しくなった。 「ちょっと、何をでたらめ言ってるの。拓朗さんと真梨乃こそ、正真正銘の夫婦なんだから」 その一言に、平手打ちを食らったような衝撃を受け、頭の中が真っ白になった。 ――本当の夫婦って、どういうこと? 真梨乃が取り乱し始めたのを見て、彼らはすぐに私を病室から追い出した。 震える手でスマホを取り出し、マイナポータルを開いて、自分の戸籍情報を確認した。 画面が切り替わった瞬間、血の気が引いていくのを感じた。 そこには、拓朗との婚姻の記録など、どこにもなかった。 慌てて真梨乃の投稿に戻り、過去の投稿をさかのぼっていくと、婚姻届受理証明書の写真が見つかった。 そこには、拓朗と真梨乃、ふたりの名前がはっきりと記されていた。 つまり、私が本物だと信じていた婚姻届受理証明書は、偽物だったのだ。息ができないほどの窒息感が、波のように押し寄せてくる。 あれほど心待ちにしていた結婚式も、交わした指輪も、手元にあった婚姻届受理証明書も、全部、最初から仕組まれた茶番だったのだ。 だから、結婚式に人が集まらなかったわけだ。彼らはとっくに、この結婚がただの茶番だと知っていたのだから。 病室のドアが開き、彼らは医師に呼ばれて出て行った。 私がまだ立ち尽くしているのを見て、彼らの顔に気まずさが浮かんだ。 「どうして……どうして、私を騙したのよ!」 第3話 半狂乱の私を前に、拓朗はただこう言った。 「ここで騒ぐな。真梨乃の休養の妨げになる。屋上で話そう」 こんな時になっても、拓朗が真っ先に気にかけるのは真梨乃のことだった。 屋上に出ると、拓朗は1冊の通帳を差し出した。 「この口座に1億入ってる。俺からの、せめてもの償いだ」 「7年分の想いを、こんな薄っぺらい通帳1冊で片付けようというの?」 私の問いかけに、拓朗は黙り込んだ。 見かねたように口を開いたのは、美也子だった。 「ねえ、気持ちなんて自分でもどうにもならないでしょ。もういい加減、騒ぐのはやめてよ。 拓朗さんが好きなのは真梨乃だけ。少しは冷静になりなさいよ」 私は呆然と彼女を見つめた。幼なじみで親友だったはずだ。 高校生の頃、彼女の実家は家計を理由に進学を諦めさせ、まだ若いうちから無理に結婚話を進めようとしていた。 学費を援助し、彼女がそのまま学校に通い続けられるよう支えたのは私だった。 あの時、彼女は泣きながら一生かけて恩を返すと言っていたのに、今はこうして私を裏切り、他人の肩ばかり持っている。それが、恩人への恩返しなのか。 母がすぐに私の手を掴んだ。その声には、苛立ちがありありと滲んでいた。 「もういいでしょう。真梨乃だって、あんたの従姉なのよ。小さい頃に両親を亡くしてるんだから、少しは譲ってやりなさい。 その1億を受け取って、これで終わりにしなさい」 その瞬間、私を産み育てたはずのこの女性が、まるで見知らぬ他人のように感じられた。 真梨乃が可哀想?なら、私はどうなるのよ。 私が5歳の頃から真梨乃はうちで暮らしていて、母は私よりも彼女を可愛がっていた。 両親がいないから、身体が弱いから――そう言われて、私はずっと譲り続けてきた。 20年以上も我慢してきたのに、今度は夫まで差し出せというのか。 胸の痛みが、万力で締め付けられるように強くなる。 私は必死に涙をこらえた。 「真梨乃のことしか好きじゃないなら、どうして私と偽装結婚なんてしたの」 拓朗は目を伏せた。 「起業したばかりの頃、恨みを買っている連中がいた。真梨乃を危険な目に遭わせるわけにはいかなかったんだ」 5年前、拓朗が起業したばかりの頃、確かに彼を恨む者は少なくなく、何者かに尾行されていたこともあった。 彼は私を郊外の別荘に住まわせ、必ず守ると誓ってくれた。あの頃はそれを、愛の言葉だとさえ思っていた。 だからこそ、その後の深夜の脅迫電話も、砕かれた車の窓ガラスも、玄関先にぶちまけられた赤いペンキも、私は歯を食いしばってひとりで受け止めてきた。 ――結局、私は真梨乃の代わりに狙わせるための、ただの囮だったというわけだ。 涙が、とうとう零れ落ちた。 拓朗の目に一瞬、私を痛ましく思うような色が浮かんだ。 「この件については、俺が悪かった。望むだけ払う」 私は振り返ることなく、その場を去った。 「いらない。これで終わりよ。もう私たちには何の関係もない」 拓朗は何か言いかけていたようだったが、もう聞く気にはなれなかった。 第4話 家に着いてすぐ、荷物をまとめ始めた。 支度を終えて出かけようとしたところ、不意に冷水を顔に浴びせられた。 「よくもそんな真似ができるわね!真梨乃はあなたの従姉なのよ!」 美也子は怒りに震えながらスマホを私の顔に突きつけてきた。さっきまで何もなかったはずの私の裏アカウントに、新しい投稿が増えていた。 内容をかいつまんで言えば、自分の夫と従姉が深い仲になったという告発で、私が以前コメントしたスクリーンショットまで添えられていた。 事情を知らないネットユーザーたちは、すぐさま真梨乃の投稿に押し寄せ、口汚く罵り始めた。 言葉はどんどんひどくなっていく。 何より問題なのは、その投稿をしたアカウントが私の裏垢だったことだ。 けれど、私はそんな投稿をした覚えなど一切ない。 私は首を振った。 「これは、私がやったことじゃない」 けれど誰も信じてくれなかった。拓朗が低い声で言う。 「今すぐ釈明しろ。お前のほうが不倫相手だったと」 私は信じられない思いで拓朗を見つめた。 「やってもいないことを、どうして私が認めなきゃいけないの?」 その晩、私はホテルに泊まることにした。 けれど翌日、ホテルの朝食会場に行くと、周りの人々が私を指差し始めた。 「あの人、ネットで話題になってる不倫女じゃない?」 「見た目は普通なのに、あんなことするなんてね」 送られてきた動画には、盗撮された私の横顔が映っていた。 タイトルにはこう書かれていた。 【ネット騒然!従姉の夫を堂々と奪った最悪の不倫女】 昨夜のうちに、彼らは真梨乃の潔白を主張するため、次々と動いていたのだ。 美也子までがSNSで長文の投稿をし、涙ながらに「私」がどうやって真梨乃の結婚生活に入り込んでいったかを語っていた。 母までもが、私の不倫を厳しく非難していた。 拓朗が経営する会社の公式アカウントも後を追うように、拓朗の妻は真梨乃ただひとりであると声明を出した。 コメント欄は完全に炎上していた。 スマホは絶えず震え続け、見知らぬ番号から罵倒のメッセージが次々と届く。 電話番号も住所も勤務先も、すべて特定され、ネット上に晒された。 ネット上の悪意が一斉に私へ向けられ、息が詰まりそうだった。 そんな時、拓朗が私を見つけ、強引に連れ去った。 「真梨乃はここ数日、体調がかなり悪い。医師からも、このままではもっと悪化すると言われてる。だから、お前が直接謝りに行け」 病室に連れて行かれると、真梨乃は私にコップの水を差し出してきた。 「みんな先に出てて。佳乃とふたりで話したいの」 ふたりきりになった瞬間、真梨乃が口を開いた。 「実はあの投稿、私がやったの。あなたの裏垢のパスワードは、美也子が教えてくれた。 去年あなたが流産したのも、私がわざと仕組んだこと。拓朗もあなたの母さんも、みんな知ってるわ」 まるで初めて彼女という人間を知ったような気がした。 「どうして、こんなことを……」 真梨乃は嘲るように笑った。 「小さい頃からずっと、あなたの方が私より恵まれてたじゃない。裕福な家に、仲のいい両親。なんで私だけ孤児なの。 恋人だって、私よりずっといい人で。何もかも私より恵まれてるのが、我慢ならなかったのよ!」 本来なら湧き上がるはずの怒りは、真梨乃の狂気じみた目を見た瞬間、消え失せていた。 ただただ、疲れ果てていた。 「もう、望んでたものは手に入れたんでしょう。なのに、どうしてまだ私を解放してくれないの」 真梨乃は小さく笑った。 「ふふ。まだ、足りないから」 その言葉の意味を理解するより早く、次の瞬間、彼女は突然悲鳴を上げて仰け反った。 「真梨乃!」 病室のドアが勢いよく開き、拓朗は私を一瞥もせず真梨乃を抱き上げ、医師を呼びながら飛び出していった。 美也子が突進してきて、私の頬を平手で打った。 「私たちはちゃんとチャンスをあげたのよ。それでも懲りないなら、もう容赦しないから!」 彼女は私の腕を掴み、廊下の奥へと引きずっていく。行き着いた先は使われていない倉庫だった。 抵抗しようとしても、手足に力が入らない。 ――真梨乃がくれたあの水、何かおかしい! 美也子はドアを内側から施錠すると、電話をかけた。 「連れてきたよ。上がってきて」 私は警戒した。 「何をするつもり?」 「まあ、私を薄情だなんて思わないでね。ここまで騒ぎを大きくしたのは、あなたなんだから」 美也子の指示で、数人の酔った男たちが近づいてきた。先頭の男が私の顎を掴み、スマホの画面に向かって何かの合図をした。 画面の向こうには、微笑む真梨乃の顔があった。 ――これが、真梨乃の言っていた「足りない」ということか。彼女は私の持っているものを奪うだけでは飽き足らず、私自身を壊そうとしていたのだ。 美也子は動画を撮り終えると、静かに倉庫を後にした。鍵穴で鍵が回る音がした。 これは脅しなんかじゃない、本気なんだと、そこでようやく悟った。 ドアの外から母の声が聞こえた。 「本当に大丈夫なの?」 美也子が答える。 「大丈夫ですよ。ちょっとよしのちゃんにお灸を据えてるだけ。脅かすだけで、本気で何かするつもりはないですから」 違う!彼らは本気だ! 力を振り絞ってドアを叩こうとしたが、痺れた手足ではまともに音すら立てられなかった。 「そうよね。本当に何かあったら、佳乃なら真っ先に騒ぎ出してるはずだもの」 足音が次第に遠ざかっていき、絶望がじわじわと全身を覆っていく。 酔った男たちが笑いながら、私の身に最後に残った服まで引き裂こうとしたその時、倉庫のドアが荒々しく蹴破られた。 「警察だ!ここで性的暴行を教唆している者がいるとの通報を受けてきた!」

More GoodNovel Novels